林内における葉群の空間的不均一性は、落葉分解を解した物質循環やそれに起因する林内養分環境の場所間差によって樹木個体の成長に影響しうる。本課題では、林木の個体成長を高精度で予測可能とするための統合的な樹木成長モデルのうち、林分における葉の散布・分解過程を統合的にモデル化することによって、個々の樹木個体の葉生産量と林内の各林床における落葉の量と種組成を効果的に推定する技術を開発することを目的として研究を遂行した。樹木の葉の生産・散布過程に影響すると考えられる形質のうち、樹高や樹冠幅などについて測定し、幹直径と、樹高や樹冠構造等とのアロメトリー関係において、有意な系統間差を検出した。また土壌養分動態の空間的不均一性の要因となりうる落葉分解過程のモデル化のために実地での分解試験を実施し、各樹種の分解速度係数を推定した。さらに葉の生産・散布過程の統合的な推定のため、林内の樹木個体のサイズと空間配置を明示的に組み込んだ階層ベイズモデルを構築した。構築したモデルを用いて、これまで蓄積した山地渓畦試験地における落葉量のデータと樹木個体データを統合的にもちいて、葉の生産・散布過程の推定を行った。また樹種ごとの葉の生産および散布特性と関連すると考えられる樹木形質を探るため、葉の肉厚さ、葉面積などの葉形質の調査を実施した。推定の結果、個体ごと或いは斜面の上部下部など立地によるばらつきはあるものの、葉面積等の葉の形質よりも樹木個体そのものの樹高・樹冠構造のほうが、葉の生産・散布過程に対する影響が大きいことを明らかにした。
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