本研究は、「スギの長期成長の地域変異が、1年の中での成長期間の長さによって決定される」という仮説(「フェノロジー仮説」)を検証することを目的として実施した。前年度までに北海道・茨城・千葉・高知・宮崎のスギ林において測定装置を設置した。これらのスギ林において、新たにスギの成長の季節変化のデータを収集し、整理した。収集した新たなデータを昨年度までに作成したデータセットに追加した。このデータセットを用いて、北海道・岩手・山形・富山・茨城・千葉・高知・宮崎におけるスギの肥大成長フェノロジーを調べた。まず、各林分において測定年ごとにスプライン曲線の当てはめを行った。次に、得られた曲線を用いて、成長フェノロジーに関する3つの指標(成長開始時期・成長停止時期・成長期間)を算出した。ここで、当年成長量の10%・90%に達した日を成長開始時期・停止時期とした。また、開始時期から停止時期までを成長期間とした。最終的に、3つの指標と各林分の緯度・気温との関係を線形混合効果モデルで解析した。その結果、成長開始時期と緯度・温度との間には明瞭な関係があり、温暖な低緯度地域では成長開始が早いことがわかった。一方、成長停止時期は両変数と明瞭な関係がなかった。そのため、両者の差である成長期間と緯度との間に弱い関連が認められ、低緯度地域で成長期間が長い傾向があった。この傾向といくつかの仮定の下で数理モデルから得られる知見に基づくと、低緯度地域において初期成長が早いことが予想される。この結果は既存の知見と合致するので、成長期間の長短で長期成長の地域変異を部分的に説明できると考えられた。本課題の結果は、わが国のスギ林において、地域の自然条件を考慮した収穫予測手法を開発する際の基礎資料となる。
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