斜面崩壊は、降水量の多いモンスーン地帯に位置し、急峻な地形をもつわが国の森林において主要な地表攪乱のひとつである。本研究は、斜面崩壊が樹木の更新初期過程に果たす役割とそのメカニズムを明らかにすることを目的とした。2013年8月の記録的な大雨によって複数の斜面崩壊が発生した冷温帯林の山地小流域において、斜面崩壊跡地および、隣接する攪乱を受けていない林床に調査区を設置し、2013年から2016年にかけて、シードトラップによる種子供給量の把握と樹木実生の発生・生存・成長の観測を行った。 斜面崩壊跡地では、攪乱を受けていない林床と比較して、2014年に発生した実生の密度が高く、その生存率も高かったことから、斜面崩壊による攪乱が樹木実生の定着を促進していることが示された。2013年秋季の落下種子密度が高く、2014年に発生した実生の発生・成長・生存でも他の樹種を上回ったサワグルミが、斜面崩壊跡地における優占種となった。 斜面崩壊跡地は、その形成過程により、発生域・流走域・堆積域の3つの攪乱タイプに区分される。本試験地の斜面崩壊跡地では、優占種のサワグルミの樹高は、攪乱から2生育期間を経過した2016年時点で、他の2つの攪乱タイプと比較して発生域で低かった。発生域では、土壌の体積含水率が低かったことから、水分条件が劣ることにより樹高成長が抑制され、植生回復が遅れていると考えられた。一方、発生域では、2016年のスギ、イタヤカエデ実生の加入が多かった。このことから、斜面崩壊の発生域においては、優占種の成長が抑えられるため、他の攪乱タイプと比較して長い期間にわたり、新たな実生が加入可能な状態が維持されることが示唆された。
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