最終年度である平成28年度は、農作物への餌資源としての依存度の定量評価のための安定同位体比分析を継続して行うとともに、GISを用いたバッファ解析を行い、全ての調査・分析データを統合して一般化線形混合モデルによる解析を行った。 安定同位体比分析では、前年度に引き続き京都大学生態学研究センターのガスクロ燃焼装置付き質量分析計(Delta V advantage)をお借りして、粉末状に粉砕したシカ糞の炭素・窒素安定同位体比を測定した。GIS解析では、各調査地の中心点から、シカの行動圏に相当する半径500mのバッファを発生させ、バッファ内に含まれる農地割合や人工林割合をそれぞれ算出した。農地割合や人工林割合の算出にあたっては、環境省の25000分の1植生図を利用した。 その後、これらの分析・解析結果と、前年度までに得た採食頻度の調査結果、シカ生息密度推定結果を用いて、統合的な解析を行った。観察された食痕数を目的変数、シカ生息密度、窒素同位体比、農地割合、人工林割合を説明変数、空間自己相関を考慮できるよう各調査地の位置関係をランダム効果とし、解析には一般化線形混合モデルを用いた。モデルではオフセット項を観察された総生育本数とし、ポアソン分布を誤差構造に用いた。 解析の結果、シカ生息密度が高い方が採食圧が高くなるという一般的な関係が得られる一方で、窒素同位体比、すなわち農作物依存度が高いほど採食圧が低くなる関係や、人工林割合が高いほど採食圧が高くなる関係が得られた。以上のことから、森林植生への被害対策としては一般的なシカの個体数管理だけでなく、生息地の人為撹乱(人工林化)や人為撹乱環境の餌資源(農作物)の管理も重要であることが示された。本研究の結果を踏まえ、生息環境管理の重要性を加味した統合的な対策を構築していくことが必要であろう。
|