海洋の主要基礎生産者である珪藻類は,必須栄養塩 (窒素・リン)を巡り,種間で熾烈な競合を展開している。通常こうした競合の過程では,生態学の一般原則に従い,栄養塩利用能に勝る一部の限られた種が勝ち残り,他種を排除するものと考えられてきた。しかしながら実際の沿岸海水中では,きわめて多くの珪藻が共存を果たしている。この矛盾は半世紀前から「プランクトン・パラドックス」と呼ばれ,海洋生態学の大きな謎の一つとされてきた。これまで独自に得た知見に基づき代表者は「様々な有機物と複雑に結合した窒素・リン原子を利用するには,複数の珪藻種が協働的に窒素・リンの切り出し(分解)を行う必要がある」という仮説を構築した。この仮説を検証するために,本課題では,複数種の珪藻の有機態窒素・リン分解能とその種間差異を明らかにする。 最終年度は,窒素・リン原子が複雑に結合した有機窒素・リン化合物のうち「核酸」に焦点をあて,珪藻種による核酸利用能の詳細を明らかにしようとした。まず,核酸構成要素の利用活性評価系を新たに確立しようとした。ここでは,分光プレートリーダーを用いることで,核酸構成要素を高速・簡易に検出・定量可能な系を確立した。沿岸試料から,核酸の分解に関わるであろう各種フォスファターゼ活性とともに核酸構成要素の利用活性を検出することができた。しかし一方で,当初,協働利用すると考えられた珪藻種は,いずれも細胞形態が類似しており,それらの共存下では各種を区別して検出することができないと判断された。そこで,珪藻複数種の共存機構を実証するため,細胞形態の明らかに異なる珪藻培養株を確立することができた。 研究期間全体を通じて,いくつかの珪藻の核酸分解・利用能は大きく異なることが判明した。これらは,核酸をはじめとする有機態窒素/リンを協働的に分解し,その結果,珪藻群集としての共存繁栄を図るのではないかと示唆される。
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