研究課題/領域番号 |
26850118
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
土井 航 東海大学, 海洋学部, 講師 (70456325)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | サクラエビ / 産卵予測 / 産卵履歴 / バッチ産卵数 / 産卵頻度 / 組織切片 |
研究実績の概要 |
2013年10~12月の駿河湾の漁獲物からサクラエビ雌の標本を収集した。飼育実験を2013年6月・8月、2014年8月・10月に行い、合計336個体の成熟雌を飼育し、200個体を産卵させた。平成26年度に予定していた研究の実績は次の通りである。 最終成熟卵の観察方法の開発|卵巣内に最終成熟卵をもつ雌を産卵直前の状態と判断できるようになった。最終成熟卵の有無を調べる方法として、エビの第3歩脚の基部において背腹に垂直な組織切片を作成し、HE染色することで、輸卵管周辺を観察する方法を開発した。 最終成熟卵の観察方法の応用|最終成熟卵をもつ個体を産卵直前個体と判断し、産卵期中の調査日ごとに占める割合を求めると9~20%となった。これによって、産卵頻度(その日に産卵する雌)のうち、標本中に占める産卵直前の雌を識別することが可能になった。 産卵予測|本研究以前は卵巣が青色を呈する個体は、当日に産卵する成熟個体としてカウントされていた。本研究では、卵巣の色彩を3段階に分けることができ、段階ごとの産卵直前個体の割合は約10%、50%、100%とであることが示された。これまで外見的に成熟個体と判断されてきた雌の成熟段階は一様ではないことが明らかになった。 産卵履歴の推定|産卵の直接的な証拠である排卵後濾胞はサクラエビでは観察されなかった。しかし、産卵直後の卵巣は卵巣腔が大きく開き、未成熟卵群によって構成されるという特徴をもつことを明らかにできた。これを産卵直後個体と判断すると、調査日ごとの割合は6~20%となった。産卵直後の雌が識別可能になり、産卵頻度の推定精度の改善が期待される。 バッチ産卵数|飼育下で産卵させた173個体について、バッチ産卵数を求めた。体サイズが大きな個体ほど多くの卵を産む傾向が視覚的に認められるものの、ばらつきが大きく、季節性・産卵経験などの要因を検討する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では大きく3つの目的を掲げている。それぞれの達成度を以下のように自己点検し、その平均から全体の達成度を2と評価した。 【目的1】最終成熟卵を指標に用いた個体の産卵予測・排卵後濾胞を指標に用いた個体の産卵履歴の推定|飼育実験により最終成熟卵の観察方法を確立することに成功した。これを指標に、採集後にすぐに固定した天然個体において産卵直前個体の割合を求めることができた。一方、排卵後濾胞は飼育実験により産卵させた雌において観察することができなかった。その代わり、卵巣腔が開き・未成熟卵群で構成されるという、産卵直後の卵巣の特徴を記載することができた。以上より、目的1の達成度は2と評価した。 【目的2】目的1の結果を天然個体群に応用し、産卵頻度・初産・経産個体の出現率の季節的変化を推定する|応用範囲は産卵期中と産卵期後の月に得られた標本とに留まった。これは卵巣組織の観察に必要な時間と労力の見積りが甘かったためである。また、排卵後濾胞の観察ができていないため、産卵後一定期間持続する産卵履歴の指標が得られず、初産・経産の識別は困難と予想される。以上、分析の遅れと当初計画の変更から達成度は3と評価した。 【目的3】バッチ産卵数の推定|173個体分のバッチ産卵数のデータを得ることができた。しかし、産卵数が体サイズに対して大きなばらつきを示しており、その要因を検討する必要がある。統計解析や海洋環境データ等との関係解析は、平成26年度の研究だけでは不十分である。計画通り平成27年度以降も実験を継続し、サンプルサイズを充実させることで解決できると考えている。以上より、達成度は2と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
研究は概ね計画通りに進行していることから、平成27年度も当初の方策のまま推進する。 平成26年度は、天然個体の組織観察については、産卵期と産卵期終了後に得られた標本に解析努力を注いだ。その結果、それ以外の時期とくに産卵期開始前から産卵期前期の標本観察に遅れが生じているので、平成27年度は解析努力を一様にする。 当初の目的であった排卵後濾胞の観察はできなかった。これがサクラエビ特有の現象なのか、それとも本種に近縁な分類群に共通するものなのか、他の論文や駿河湾内で混獲される近縁種についても観察し、検討する必要がある。 卵巣の色彩については、卵巣の色彩を3つのステージに分けるための識別チャートを作ることで、当日産卵個体の割合をより正確に求めることができると期待される。平成27年度はこのチャートの作成を新たに研究計画に加える予定である。
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