陸域から沿岸域に流入した除草剤が、珪藻・鞭毛藻等のプランクトンの遷移に及ぼす影響は明らかになっていない。本研究は、除草剤が珪藻と鞭毛藻の競合関係に及ぼす影響を明らかにする事を目的とし、昨年度に引き続き赤潮が発生する福山港における海水中の除草剤濃度を測定すると共に、検出された除草剤に対する珪藻および鞭毛藻の感受性の差異を検討した。昨年度に引き続き、 6から7月を中心に12回、田尻港、芦田川河口域及び芦田川河口堰上流の環境水を採取し、10種類の除草剤濃度を測定した。その結果、ブロモブチド(<30-340 ng/L)、ブロマシル(<56-134 ng)、シアナジン(<39-92 ng/L)、プレチラクロール(<15-112 ng/L)の4種が検出された。同日に採水した表層水濃度を比較した結果、何れの物質も河口堰上流の濃度が高いことから、これらの物質は河川からの流入が想定された。海水中濃度測定により、50ng/L以上の濃度で検出された除草剤4種のうち、昨年度検討していないプレチラクロールを用い、田尻港の海水および底質から分離した珪藻キートセロスおよび鞭毛藻ヘテロシグマに対する毒性を検討した。その結果、ヘテロシグマよりもキートセロスが高い感受性を示した。1Lの培養系から藻類を集めて薬剤代謝酵素の活性を測定したものの、サンプル量が少なく活性を測定するに至らなかったため、鞭毛藻ヘテロシグマ及び珪藻キートセロスを用い、対照区及びブロマシル曝露区のトランスクリプトーム解析を実施中した。次世代シークエンサーを用いたトランスクリプトーム解析により得られたデータからブロマシル曝露区及び対照区における珪藻及び鞭毛藻の遺伝子発現強度を比較した。珪藻では、遺伝子の発現強度が鞭毛藻より総じて多く、また有意に発現強度が変化した遺伝子が鞭毛藻よりも多い傾向が認められた。
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