本年度ではNocardia seriolaeの病原因子候補の遺伝子破壊株を作成し、その病原性の弱毒化を感染実験により評価した。アンピシリンおよびカナマイシン感受性株を選別するため、鹿児島県養殖ブリ由来株と高知県養殖カンパチ由来株を対象にして薬剤感受性を調べた。超音波処理で撹拌した菌液を薬剤平板培地上にスポットして最少発育阻止濃度を判定した。両薬剤に最も高い感受性を示した1株を選択し、ドラフトゲノム情報に基づき決定した細胞侵入因子のmce遺伝子を遺伝子破壊の標的にした。N. seriolaeプラスミドよりrepA遺伝子を含む遺伝子領域をPCR法で増幅し、pUC19に挿入してシャトルベクターを作成した。同シャトルベクターにmce遺伝子の上流配列+バチルス由来sacB遺伝子+カナマイシン耐性遺伝子+破壊遺伝子の下流配列を導入した。得られたプラスミドでN. seriolaeの形質転換を行い、2段階の相同組換えによりマーカーレスなmce遺伝子破壊株を得て、感染実験で病原性を確認した。供試魚にはブリ当歳魚を用い、菌液を腹腔内注射して水槽に収容し21日間飼育した。感染期間中の死亡魚と感染終了後の生残魚の各組織からDNAを抽出し、16S rRNA遺伝子標的のQ-PCR法に供した。感染7日後、尾柄部または体表に軽度の潰瘍を呈する感染魚が出現するようになり、10日後以降死亡魚が見られるようになった。死亡魚と感染終了後の生残魚の剖検では、鰓、腎臓、および脾臓に大小の粟粒状結節が観察され、Q-PCR法により同組織で高い遺伝子コピー数が検出された。よって、mce遺伝子破壊株を投与した魚でノカルジア症の特徴的な症状が見られたため、感染防御効果の評価まで至らなかった。今後は他の病原因子の候補遺伝子について調べていく必要がある。
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