本研究では、河川ー河口域ー沿岸域に至る水域において、遊泳能力の乏しい仔稚魚が,分散・滞留をどのように選択しているか明らかにすることを目指し、広塩性魚類の仔魚の生物学的・行動学的特性を明らかにすることを目的として研究を行った。今年度は、昨年度飼育体制を構築することができたエツ仔魚を用いて、本種の初期生活史における河川内分布に影響を与える河川内での生態について考察した。飼育実験の結果、孵化仔魚は成長とともに体比重が増加し、10日齢で海水よりも高い体比重を示した。エツ仔魚の体比重は昼夜で変化し、鰾内にガスを保有する個体の割合は10日齢以降に増加した。それにともなって体比重の夜間差がそれ以前よりも増大した。成長にともなう昼夜の滞在深度を調べたところ、3日齢以降の個体には正の走光性があるものと考えられた。エツ仔稚魚 197 個体について耳石日齢査定を行ったところ、天然個体の全長(Y)と日齢 (X)の関係には正の相関関係がみられ、Y=0.390*X+2.6479となり、 飼育個体では 10 日齢以降で Y=0.653*X+2.9430であった。エツ親魚8個体について二次元耳石Srマッピングを行ったところ、淡水生活期間の長さに個体差が大きく、より長期間にわたり淡水もしくはかなり低塩分であろう水域に滞在する個体もいることが明らかとなった。また、耳石微量元素分析については、総説の分担執筆を行い、国際学会招待講演を行った。これまでの研究結果を総合すると、エツは、孵化仔魚期は昼間に走光性によって表層に分布し、遊泳力の乏しい孵化仔魚は昼間に自身の体積を小さくして運動力を増大させて摂餌を行い、また流れに対する抗力を減少させることで下流への移動を最小限に抑えていると考えられた。また、夜間は運動を停止して鰾の膨満により、沈降を緩やかにすることで滞在深度を維持していることが推測された。
|