本年度は以下の課題について研究を行った。 これまでの一連の解析で同定し、機能解析よって、短期の海水移行による体液浸透圧上昇を抑える働きを担う新規遺伝子を、epithelial salinity tolerance-enhancing factor (eSTEF)と命名した。しかし、表皮内において、どのような細胞内機構により、浸透圧調節に関わるかは不明である。そこで、eSTEFに対する抗体を作成し、細胞内局在を明らかにするとこを試みたが、eSTEF特異的なシグナルを検出するには至らなかった。今後は、新たな抗体を用いた免疫染色による検出により細胞内局在を明らかにする予定である。eSTEFの組織学的解析が困難であったため、水透過性に関わる作用を明らかにすることとした。孵化後1日の仔魚に対してeSTEFノックダウンを行い、ノックダウンと対照群について、海水中で発現するアクアポリン(AQP)の0、1、3、4、8、9、10bについて定量PCRで発現量への影響を調べた。その結果、いずれのAQPについてもeSTEFノックダウンによる影響は見られなかった。従って、eSTEFはAQPに対して直接的に作用しないと考えられる。今後は、細胞内代謝、AQP以外の水透過性に関わる細胞間接着分子への影響と細胞骨格への影響を中心にeSTEFの細胞内での機能の解明を継続する。 全塩類細胞分化誘導因子として働くことが分かった、転写因子FOXI3について、さらなる下流のシグナリングによって各タイプ(淡水型や海水型)の塩類細胞へ分化することが分かったため、さらなる下流因子の探索を進めた。作製したFOXI3抗体は、特異的にFOXI3を認識するためこの抗体を用いてCHIP-Seq解析を行った。現在、東京大学滝海洋研究所の次世代シーケンサーによるフラグメント解析を進行中である。
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