研究課題/領域番号 |
26850132
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
別府 史章 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 助教 (10707540)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | Tocopherol / ビタミンE同族体 / 酸化ストレス / 脂質代謝 |
研究実績の概要 |
本研究は海洋生物由来ビタミンE (MDT)の生体における抗酸化効果を明らかにすることを目的とする。そのために、酸化ストレスが顕在化する肥満や炎症をターゲットにし、それらに対する防御・改善機能からMDTの生理機能を評価する。 26年度では、始めにMDTの吸収性と組織への移行について調べ、経口投与したMDTの吸収性は主要な同族体であるαトコフェロール(αTP))には及ばないものの、その他の同族体と比較して有意に高く、MDTが各種臓器・器官へ移行することが確認された。この結果は27年度以降の生体内酸化ストレスに対する防御機能を検討する上で、ターゲットになる組織及び細胞を選定し、その作用機構を詳細に検討する上で重要な知見である。 一方、本研究で用いるサケ卵中のMDT含有量が季節や生物種により大きく変動することが確認され、当初予定よりも安定的な供給が困難になる可能性が危惧された。そこで58種の海洋生物中のMDT含量を分析するとともに、抽出、精製方法の効率改善も検討した。その結果、MDTの供給源として有望な海洋生物を数種選抜するとともに、精製工程に還元剤を用いる化学反応を応用することで、従来の方法に比べ20倍以上高効率にMDTを精製することに成功した。今後の研究を円滑に進めるために有益であるとともに、MDTを含む未利用海洋資源の開発につながる貴重なデータであると考える。 27年度に検討する肥満病態における酸化ストレスに対する機能評価は、脂肪細胞と単球系細胞それぞれに対する影響に加え、共培養系を用いる細胞間相互作用への影響も評価する必要がある。本年度はその評価系を既報に倣い構築した。脂肪細胞やマクロファージ細胞からそれぞれ分泌されるアディポサイトカインやケモカインの産生量および産生に関わる遺伝子発現量の測定は、MDTの作用特性を評価する上で重要な指標となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
26年度では当初予定していたMDTの体内動態に関する知見を得ることができた。また、26年度から27年度にかけて行う予定である肥満モデル動物を用いたMDTの機能解析については、現在実験に用いるMDTの調製を鋭意進めている。一方、MDTの供給源として優れる試料の選定、さらには精製工程における効率を従来の方法と比べて20倍以上改善ができたことにより、27年度以降に予定される機能解析研究をこれまで以上に効率よく着実に実施できる。さらには脂肪細胞およびマクロファージ様細胞を用いた評価系も構築できており、当初予定通りに進んでいる。 以上より、当初の計画が予定通りに実行されていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
生体内酸化ストレスは健康状態や生体内環境の違いが発生部位や規模に大きく影響し、特に肥満病態を呈した生活習慣病患者では健常者と比べて、より多くの活性酸素種が全身に拡散していることが知られている。そのためMDTの生体における抗酸化効果は全身に拡散する酸化ストレスを想定し、酸化ストレスが顕在化した評価モデルを複数用いて、それぞれに対する防御機能から総合して評価を行う。これまでにMDTの体内動態を明らかにし、経口摂取したMDTが脂肪組織や肝臓において多く存在することが示された。そこで本研究ではまず始めに肝臓や脂肪組織における酸化ストレスに対する防御機能の評価を肝、脂肪およびマクロファージ細胞を用いて行う。また、最近の研究ではαTPやγTPをはじめとするビタミンE同族体が核内受容体PPARγを介した遺伝子発現制御機能を持つことが示されていることを考慮すると、脂肪組織や肝臓に蓄積したMDTが脂質代謝制御作用も発揮することが期待できる。抗酸化ストレス機能の評価に加え、脂質代謝制御機構への影響についても肥満モデルマウスを用いて評価する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では肥満モデルマウスを用いた試験を26年度内に開始する予定だったが、実験に用いるMDTの安定的な供給方法を検討する必要が生じたため、動物実験は27年度に開始し、26年度は化学的手法による精製方法の改善を検討した。そのために実験動物購入費用に計上していた予算は次年度に使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
27年度はMDTの機能解析を当初予定していた各種培養細胞系を中心とする評価に加え、肥満モデルマウスを用いた評価を行う。培養細胞を用いる試験には27年度計上した研究経費分を使用し、実験動物と飼育にかかる諸経費に26年度からの繰り越し費用を充てる。また、遺伝子・タンパク質解析、各種キットを用いた生化学試験には高額な試薬が必要となるが、それらは当初予定していた通り27年度予算から支出する。 また、本研究で得られた研究成果を学術雑誌や学会発表を通して積極的に発信するため、論文投稿料、外国語論文校閲費、国内外の学会参加費を予定通り27年度予算から使用する。
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