これまでの研究で確立した手法により、潮間帯―潮下帯に生息する無脊椎動物および藻類におけるエクトイン類縁体蓄積を検討した。その結果、測定した節足類・軟体類・棘皮類・脊索類すべての分類群と、褐藻・緑藻からエクトイン及びその類縁体の蓄積が確認されたことから、エクトイン類縁体は海洋無脊椎動物および海藻類に広く蓄積されていることが明らかになった。なお、これまで研究で、魚類及び淡水性貝類からは痕跡程度しか検出されていない。 また、海洋生物におけるエクトイン生合成についての知見を得るため、細菌類のエクトイン生合成酵素群の遺伝子情報をもとに、海洋無脊椎動物・藻類のゲノムからエクトイン生合成酵素遺伝子を探索したが、現在までに有意な相同性を示す遺伝子は確認されていない。また、RT-PCRによるcDNAクローニングでも、細菌の合成酵素に類似した遺伝子は確認できなかった。このことから、これらの生物は、微生物由来のエクトインを蓄積しているか、細菌とは異なる生合成経路を持つ可能性が考えられた。しかし、昨年度の研究で、海洋生物からは、細菌類には見られない複数の類縁体が検出されていることから、未知の生合成経路の存在する可能性が高いと考えられた。そこで、生合成酵素を含め、エクトインと相互作用するタンパク質を探索するため、アフィニティークロマトグラフィーを実施した。その結果、エクトインに結合能を持つ複数のタンパク質を検出した。
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