研究課題/領域番号 |
26850136
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小松 知未 北海道大学, 農学研究院, 講師 (30634977)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 農業経営主体 / 原子力災害 / 果樹産地 / 農業経営支援 |
研究実績の概要 |
本研究の課題は、原子力災害による果樹産地の構造変動に応じた担い手育成方策を明らかにし、経営支援システムを構築することである。本研究では、関係機関が所持している農業構造に関するデータを総合的に分析して、構造変動を明らかにした上で、担い手育成方策と農業経営支援システムをモデル的に示し、復興プロセスを理論的に解明する。 2016年度(H28年度)は、①福島県における農業構造変動の統計分析、②福島県果樹産地・果樹経営の原子力災害後の生産動向の総合的把握、③福島県産果実に関する販売・流通・消費者意識の総合的把握を実施した。また、文献整理(原子力災害、農業経営支援システム関連ほか)、学会参加(農業経営学関連、農業経済学分野の震災対応・農業経営支援関連)により、基礎的情報を収集した。 調査・分析の実績は下記のとおりである。①福島県における農業構造変動の統計分析では、地域別の動向を確認した。分析対象として、農業構造の変化の全体像を把握することを目的に、幅広い指標を選定した。加えて、部門別の分析を行った。以上を踏まえ、福島県における果樹主産地・販売金額果実1位経営の動向を明らかにした。 ②福島県果樹産地・果樹経営の生産動向の総合的把握では、原子力災害後の果樹に関する放射性物質対策の研究動向を踏まえ、研究により得られた知見が福島県内において、どのように放射性物質対策(除染事業等)に結びついていったのかを整理した。また、福島県産果実価格の動向、先進的な果樹経営者グループの経営対応を明らかにした。 ③福島県産果実に関する販売・流通・消費者意識の総合的把握においては、2015年度の各種調査結果の分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年度(H28年度)は、①福島県における農業構造変動の統計分析、②福島県果樹産地・果樹経営の生産動向の総合的把握、③福島県産果実に関する販売・流通・消費者意識の総合的把握の枠組みで実態調査と結果分析を行い、それぞれ下記のようなデータ収集・取りまとめが完了している。 ①福島県における農業構造変動の統計分析では、独自に被災区分(6区分)を設定し、地域別の動向を確認した。分析対象としては、農業構造の変化の全体像を把握することを目的に、幅広い指標を選定した(農業経営体数、農業従事者数、経営耕地面積、農業用機械、林業経営体・作業面積、農業集落の寄り合い状況等)。加えて、部門別の分析を行った。部門別の組み換え集計の対象は、販売金額規模別の経営体数、農産物出荷先別の経営体数とした。以上を踏まえ、福島県における果樹主産地・販売金額果実1位経営の動向を明らかにした。 ②福島県果樹産地・果樹経営の生産動向の総合的把握では、下記構成で調査結果を取りまとめた。(1)原子力災害直後の果樹産地の動向 (2011年産)、(2)果樹における放射性対策の技術情報と除染、(3)産地自主検査の開始と果実の検査結果、(4)放射性物質対策実施後の果実販売・流通の動向、(5)果樹生産者が受けた影響と復興に向けた取組み。 ③福島県産果実に関する販売・流通・消費者意識の総合的把握においては、2015年度の各種調査結果を分析して、下記論文に取りまとめた。果樹経営者との共同調査を行った結果を「消費者意識に基づいた農業経営者による情報発信に関する調査研究-首都圏在住者を対象としたモモ試食調査結果の分析とデータ活用―」として取りまとめた。地域協議会との共同調査を行った結果を、「農産物加工品に関する消費者意識と販路拡大に関する調査研究-首都圏在住者を対象とした福島県産あんぽ柿の試食調査結果の分析―」として取りまとめた。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度(H29年度)は、本研究の最終年度となる。3つの領域について、下記の調査・分析が完了しているが、最終年度はそれらを用いた総合的考察を行う。 まずは、総合的考察の前提として、各領域の3か年の調査結果を取りまとめる。①農業構造分析(個票を用いた樹園地の構造動態の解析(2014年度)、農業センサスを用いた農業構造分析(2016年度)の結果を取りまとめる。②産地システム・農産物市場条件調査(福島県産果実に関する消費者意識調査(2014年度~2016年度)、販売・流通システム調査(2016年度))の結果をもとに、産地条件の変化を取りまとめる。③農業経営調査(果樹経営の営農実態調査(2014年度)、農業経営者の意識調査(2015年度)、経営転換に関する先進事例調査(2014~2015年度)、果樹生産における放射性物質対策に関する調査(2016年度))の結果をもとに、果樹経営を取り巻く外部環境の変化と内部環境の転換の実態についてとりまとめる。 これらを踏まえ総合的な考察を行い、担い手育成方策と農業経営支援システムをモデル的に示し、復興プロセスを理論的に解明する。具体的には、担い手育成プランを実現するための経営支援体制について、既存の制度の活用、新規制度の設計、関係機関の主体間の分担関係の再編のあり方を検討し、果樹産地における新たな経営支援システムをモデル化する。このモデルに沿って、原子力災害後の福島県果樹産地における経営支援システムを具体的に提案する。最後に、原子力災害からの復興に関する既存研究と本研究の研究成果から総合的考察を行い、復興を推進するための理論・方策を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画においては、アンケート調査の印刷費・送付回収費として一定の予算を確保していたが、この予算の使途を変更して次年度に繰り越すこととした。その理由は、予定していた調査を、外部主体(農業経営を支援する民間企業・産地協議会)との共同調査として、2015年度に前倒しで実施していたためである。入手済みのデータを今年度精査したところ、研究計画上必要とする分析に着手することが可能であった。十分なデータが得られていたことから、追加調査は不要と判断した。
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次年度使用額の使用計画 |
事業期間中に所属が福島大学から北海道大学に変わったことなどから、調査対象地へ行くための旅費を追加的に確保する必要がある。そこで、前年度実施を中止したアンケート調査に関わる予算(別途、必要なデータは入手済み)を繰り越して、最終年度の旅費として支出する予定である。
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