本研究の課題は、原子力災害後の果樹産地において、果樹経営支援システムを強化する方向性とその実践的プロセスを提示することである。これまでも、国・県・市町村・農業関係機関は、支援事業の整備を進めてきたが、果樹産地を対象とした地域営農支援システムに関する研究蓄積は少なく、地域営農再編の方向性を決めるための知見は十分ではなかった。 そこで本研究では、原子力災害の被害地域において、生産から流通までを一体的にサポートする果樹経営支援システムを提示した。事例地域は、放射性物質による汚染レベルが深刻な地域である福島県県北地域とした。第一に、事例地域の概況と原子力災害後の果樹産地・果樹経営の動向をまとめた。第二に、地域主体が行ってきた、放射性物質対策と農産物検査の実態を整理した上で、農業経営における生産及び販売対策の課題を析出した。第三に、先進的果樹経営者グループとの共同研究により農業経営改善プロセスを実践的研究により解明した。最後に、それらを総合して、農業経営支援システムを強化する方向性と実施プロセスを提示した。 この研究成果の学術的意義は、原子力災害の被害に関する断片的な調査研究を発展させ、農産物の生産・流通・販売までを包括した復興支援システムについて提示した点にある。社会的意義は、①被災地における行政機関の制度設計と農協の組織再編に関わる緊急要請に応える研究であること、②提示した知見の一部は、被災地に留まらず果樹産地に広く適応できる重要な指針を含んでいることにある。
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