本研究の目的は、フードシステム、コミュニティビジネスの2つの視点から、伝統的農産加工の現代的意義を考察することにある。 最終年度はフードシステムの国際化の進展状況の分析に関連する、日本産農産物の輸出状況や、日本食の普及状況、今後の展望についての聞き取り調査を香港において実施した。日本農産物の輸出拡大を図る取り組みは近年増加しているものの、イベント・商談会への出展を契機に、日本産食材(特に高級品)をそのまま輸出しようとする取組が多く、長期的な展望までは描けていない。その一方で低級品は海外から日本への輸入が進行していることも多い。こうしたフードシステムの国際化が進展した状況においては、海外の食品市場や農業についての理解をまず深めたうえで、それとの比較の中で日本の食材だけでなく食文化を併せてPRすることに加え、海外に関する経験・知識を基に自らの食市場や農業経営・地域農業のことを見直すことこそが必要不可欠である。 また日本国内では、伝統的農産加工(こんにゃく)の分野において、(1)今では希少となった在来種を農家と産地商人が連携して増やしていく取組み、(2)在来種のイモと伝統的な製法による凝固剤を復活させ、自ら手づくり加工するとともに、それを調理してレストランで提供することを通じて地域活性化に結び付けるコミュニティビジネスの取組み、の2つを対象に聞き取り調査を行った。これらの取組は、量的規模としては小さいものの、食と農業や地域社会・地域経済を結び付け直している。また昔ながらの技術、文化への再注目が契機とはなっているが単なる昔帰り現象にとどまらない。その展開過程を分析すると、新しい時代のニーズを生み出したり、新たな参加の輪を広げたりするなどの可能性も秘めていた。
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