平成27年度は、1990年と2000年の『世界農林業センサス・農業集落カード』から農業集落レベルのパネルデータを作成して、集落の異質性及び農村共有資源の管理形態を考慮したランダム効果順序プロビットモデルを用いて、代表的な農村共有資源である農業用排水路の管理形態(「全戸出役」、「農家のみ出役」、「雇用」、「集落として非管理」)を規定する要因を明らかにした。分析では特に、圃場整備事業と農業用排水路の管理形態の関係に着目した。 圃場整備が進むことにより農業用排水路の維持管理や水配分の実施が容易になり、農業集落が協力水準の低い管理形態を選択するようになるのか、圃場整備事業の実施により集落内のソーシャルキャピタルが高まり、協力水準の高い管理形態が選択されるようになるのかを明らかにする必要がある。前者の場合、圃場整備事業により農業生産の効率性は改善されるが、非農家を含めた農業集落の活性化にはつながらないことが示唆される。 分析の結果、集落内の圃場整備率と管理形態の選択確率はU字型の関係にあることがわかった。集落内の圃場整備率が30%までは、圃場整備率の増加とともに協力水準の低い管理形態が選択される確率が高まるが、圃場整備率が30%を超えると協力水準の高い管理形態が選択される確率が高まることがわかった。田の平均水田整備率は60%を超えており、今後、圃場整備が進むと集落内の農地利用等の改善だけではなく、協力水準の高い管理形態が選択されていくことにより、非農家を含めた農業集落の活性化につながる可能性が示唆される。
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