本研究は、海岸侵食に直面する沿岸漁業者の対処行動および生活・生業変容に関する影響評価を行うことを目的とする。また、海岸侵食防止効果として期待されるマングローブに着目し、漁業者の視点からマングローブ管理をめぐる歴史的変遷および対処行動について整理を行った。最終年度は、インド・オディッサ州、インドネシア・アチェ州の現地調査で得たデータを集計・分析し、以下の知見を得た。 インド・オディッサ州では、海岸侵食リスクの高い漁村と低い漁村を選定し、生活時間調査および社会水産調査を実施した。調査の結果、海岸侵食リスクの高い漁村では、海岸の立地を活かし水産業に特化した生計活動が営まれていた一方、海難事故リスクに関連してお祈り時間、家屋の修繕および乾季の水汲みに多くの時間を割いていたことを確認した。また、海岸侵食により住居移転の将来リスクがあると回答した者は多かったにもかかわらず、半数以上の回答者が漁業活動を理由に近場に住居移転する意思があることを確認した。漁業者は生活空間のリスクに直面しながらも海岸侵食リスクの高い地域に意図的に移転し、漁業に特化した生業戦略を採用していることを明らかにした。 インドネシア・アチェ州においては、海岸侵食防止効果として期待されるマングローブに着目し、マングローブ資源を伝統知に基づき保護管理してきた漁業管理組織「パングリマラウト」を対象にヒアリング調査を行った。調査の結果、20世紀初頭から外部者参入による大規模なマングローブ林伐採が繰り広げられ、独立運動の内争と相俟ってなす術もない状況であったが、スマトラ沖津波の復興支援を契機にパングリマラウトが主体となって地元住民・政府・NGO等を結ぶ仲介者として機能し、失われたマングローブ林の管理を再び地域に埋め戻す重要なアクターになり得ることを本研究で明らかにした。
|