本研究は,植物の物質輸送現象を中心とした環境生理反応のモニタリングやモデリングの手法を開発し,チップバーン(Ca欠乏)の回避,野菜中の硝酸態窒素含量低減および野菜の高付加価値化などの技術の開発を目標としている。この目的を達成するために,本年度(最終年度)においては,これまでに実施した様々な環境条件下における植物の物質輸送現象を中心とした生理反応の評価や各生理反応モデルを応用し,チップバーン発生,葉内硝酸態窒素含量,環境ストレス反応などを解析した。 課題1では,Ca吸収・分配モデルおよび成長モデルによる葉菜類のチップバーンの回避を目標として,Ca吸収・分配に対する環境要素および蒸散速度の影響の評価や個葉中のCa濃度とチップバーン発生との関係を解析した。その結果,新鮮重とチップバーン発生葉数との関係性を解析することで,成長速度を考慮した障害レベルの評価が可能であることが明らかとなった。 課題2では,窒素吸収・代謝モデルによる葉内の硝酸態窒素含量の低減を目標として,窒素の吸収・代謝に対する環境要素の影響を解析した。その結果,光環境や養液条件が光合成速度と硝酸態窒素吸収速度のバランスを介して,植物体内の窒素代謝や葉内硝酸態窒素の蓄積に影響を及ぼす過程が明らかとなった。 課題3では,環境ストレス反応モデルに基づいた野菜の高付加価値化を目標として,環境要素や根の物質吸収および植物水分生理などが葉内の機能性成分含量に与える影響について解析した。その結果,環境ストレス下における葉内の機能性成分の蓄積過程とストレスレベルおよび成長速度との関係性が明らかとなった。
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