現在、視床下部に存在する“KNDyニューロン”が哺乳類の繁殖機能を最も上位で制御する中枢(繁殖中枢)であると考えられている。近年、繁殖中枢を制御する因子として2つの神経ペプチド(NKBとDyn)が報告されたが、それらの受容体の局在と作用メカニズムは未だ不明である。本研究はウシのモデル動物であるシバヤギを用いて、KNDyニューロンによる繁殖中枢制御機構を細胞レベルで解明することを目的とした。本研究成果は畜産物・農産物の生産性向上につながると期待される。 平成26年度には、エストロジェンを投与した卵巣除去成熟雌シバヤギの視床下部の組織切片を作製し、in situ hybridization法によりDyn受容体mRNAが局在する細胞を検出した。また、申請者らがこれまでに得ているヤギ視床下部神経由来細胞株について、Kisspeptin、NKB、DynおよびNKB受容体、Dyn受容体等の発現を確認した。 平成27年度には、引き続きDyn受容体のin situ hybridizationにを実施し、弓上核、室房核、腹内側核に明瞭なシグナルが得られ、ヤギ視床下部におけるDyn受容体の局在を明らかにできた。また、ヤギ視床下部弓上核のキスペプチンニューロンを免疫組織化学にて可視化し、レーザーマイクロダイセクションにてキスペプチンニューロンを切り出すことに成功した。しかし、切り出した細胞からは微量のRNAしか抽出できなかったため、今後条件検討を行う必要がある。ヤギ視床下部神経由来細胞株のうち、KNDyニューロン細胞株(GA28)を特定し、この細胞株も含めて「家畜視床下部繁殖中枢由来不死化神経細胞株」の名称で特許出願を完了した。 本研究において、ヤギ視床下部のDyn受容体の局在を明らかにし、繁殖中枢を抑制するDynの直接のターゲットとなる神経の局在部位を特定できた。また、ヤギKNDyニューロン細胞株を樹立することができた。この細胞株を用いて、繁殖中枢制御機構の解析が飛躍的に進むと期待される。
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