研究課題
卵細胞質内精子注入(ICSI)技術は、有用な繁殖補助技術である。しかし、ブタにおいてICSIをした卵(ICSI卵)の受精、胚発生効率の低さが問題となっている。その原因の一つとして、ICSIによって注入された精子による卵活性化誘起の失敗が挙げられる。それゆえ、試薬や電気刺激などによる人為的卵活性化誘起処理が施されてきた。しかし、依然として受精、胚作出効率は低いため、生理的な卵活性化を誘起させる必要があると考えた。そこで本年度は、精子が本来有する卵活性化誘起因子とされるPhosphplipase Czeta (PLCzeta)を用いた、生理的な卵活性化現象を誘起できる新しい人為的卵活性化誘起法の開発を試みた。まず、ブタPLCzeta mRNAを用いた卵活性化誘起方法の確立を目指した。その結果、300ng/μl PLCzeta mRNAをブタICSI卵に注入することで、自然受精卵と同様な卵細胞質内のカルシウム濃度変動パターンが誘起され、受精効率も79.4%となり、PLCzeta mRNAを注入していない卵 (25.0%)に比べて有意に高くなった。さらに、昨年度に引き続き、ブタPLCzeta mRNA からPLCzetaタンパク質を合成し、非侵襲的手法により卵細胞質内へ導入することで生理的な卵活性化の誘起を試みた。昨年度の研究では、無細胞系タンパク質発現法により、少量ではあるがPLCzetaタンパク質を合成することに成功したが、タンパク質濃度が低く、卵内への導入試験では卵を活性化させることができなかったので、より濃度の高いタンパク質を得られる条件を検討する必要があった。そこで本年度は、細菌を用いる系でのタンパク質発現を目指した。その結果、昨年度に比べて多くのタンパク質の合成が確認されたが、目的タンパク質の精製が困難だったため、ブタ卵子内への導入には至らなかった。
すべて 2016
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Journal of Reproduction and Development
巻: 62 ページ: 639-643
http://doi.org/10.1262/jrd.2016-103
巻: 62 ページ: 615-621
http://doi.org/10.1262/jrd.2016-113