研究課題/領域番号 |
26850173
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研究機関 | 独立行政法人農業生物資源研究所 |
研究代表者 |
新開 浩樹 独立行政法人農業生物資源研究所, 動物生体防御研究ユニット, 任期付研究員 (30502687)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ブタ / 感染症 / 抗病性 / 免疫 / 選抜 / 育種 / マクロファージ / マイクロアレイ |
研究実績の概要 |
近年、口蹄疫や豚流行性下痢が大きな社会問題となっているように、養豚業において感染症対策は喫緊の課題であり、抗病性に優れた豚の作出が期待されている。一般に家畜の遺伝的改良は、優れた形質を持つ雌雄の交配を数世代に渡り繰り返すことによって行われるが、感染症に関連する形質に関してはその重篤度の評価が非常に困難であることから、ブタの抗病性の遺伝的改良はほとんど進んでいない。 我々は、血液サンプルを用いて比較的容易に評価可能な免疫形質が、抗病性改良のための指標となり得るかを検討するために、「白血球貪食能」・「補体代替経路活性」・「豚丹毒ワクチン接種後の抗体価」の3種類の形質値が同時に高くなるように、6世代に渡る選抜を重ねた「高免疫能ブタ集団」を作出している。しかしながら、その病原体に対する免疫応答性に関する実験データはなく、免疫能選抜の生物学的効果は不明である。 本年度は、「高免疫能ブタ集団」と対照となる「無選抜集団」のそれぞれ4頭ずつのブタ血液からマクロファージを単離し、lipid Aおよびpoly I:C刺激後の遺伝子発現の変化をマイクロアレイを用いて調べた。その結果、集団間で刺激後の発現変化に3倍以上の差があり、かつ免疫応答との関連が明らかな遺伝子が、lipid A刺激で31個、poly I:C刺激で21個検出された。これらの多くの遺伝子において、免疫能選抜によりリガンド刺激後の発現変化が増幅していることが確認された。特に、細胞遊走にかかわるケモカインおよびケモカイン受容体をコードする遺伝子が多数検出され、これらの遺伝子の発現量がブタの抗病性能力や感染症罹患の程度を診断するための指標となる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は豚流行性下痢が全国的に流行し、実験豚確保およびサンプル移送の大きな障害となったが、おおむね予定通りに進捗したと考えている。特に、免疫能選抜がリガンド刺激後の免疫系遺伝子の発現上昇および発現減少といった変化を増幅させることを示したことは、統計遺伝学的手法による選抜の効果を分子レベルで証明することが出来たという意味で大きな成果と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度明らかとなった免疫能選抜によりリガンド刺激後の発現変化が増幅した遺伝子(lipid A刺激で31個、poly I:C刺激で21個)について、「高免疫能ブタ集団」および「無選抜集団」間でプロモータ多型の検索を行い、「増幅」の原因となった可能性のある多型の発見を目指す。 両集団に属するブタから血液マクロファージを単離し、リガンド刺激後のNF-kBリン酸化、NO産生、サイトカイン産生等の機能差について解析を行う。将来的には、ブタ個体に対する病原体感染試験により、免疫能選抜の生物学的効果を生体レベルで明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は豚流行性下痢の発生により、実験豚の確保およびサンプル移送が困難であり、計画していたが実施できなかった実験があるため。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度計画していた、「高免疫能ブタ集団」および「無選抜集団」間のマクロファージの機能差の解析を次年度使用額を用いて行う。免疫能選抜によりリガンド刺激後の発現変化が増幅した遺伝子のプロモータ解析を、当初の予定通り翌年度分として請求した助成金を用いて行う。
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