近年、口蹄疫や豚流行性下痢が大きな社会問題となっているように、養豚業において感染症対策は喫緊の課題であり、抗病性に優れた豚の作出が期待されている。我々は、血液サンプルから比較的容易に測定可能な免疫形質がブタの抗病性改良の指標となり得るかを検討するために、「白血球貪食能」、「補体代替経路活性」、「豚丹毒ワクチン接種後の抗体価」について、同時に6世代に渡る選抜を重ねた「高免疫豚」を作出している。昨年度、高免疫豚及び一般豚のそれぞれ4頭ずつの血液からマクロファージの培養増殖を行い、lipid A及びpoly I:C刺激後の遺伝子発現の変化をマイクロアレイを用いて調べたところ、豚群間で発現変化に3倍以上の差がある免疫系遺伝子として42個が検出された。 本年度はこれらの遺伝子について、各群10頭ずつのゲノムDNAと次世代シークエンサーを用いてプロモータ領域5kbの多型検索を行ったところ、豚群間で分布に偏りのある多型(一塩基多型及び挿入/欠失)として、RNASEL、SAMHD1、STAT3、TMEM150C、TRIM21の各遺伝子において、それぞれ9、6、30、20、50個が検出された。これらの多型で構成されるハプロタイプの推定を行い、免疫能選抜により集団における頻度が有意に高くなったハプロタイプを同定した。これらの結果は、免疫能選抜により特定の遺伝子のプロモータ配列及びmRNA発現量が変化したことを示しており、統計遺伝学的手法である免疫能選抜の効果を生物学的に証明したという意味で非常に大きな成果である。今後、当該ハプロタイプが免疫能に及ぼす効果を、他の品種/集団においても明らかにすることにより、豚の抗病性改良のために広く利用できる指標となり得るかを検討する予定である。
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