研究課題/領域番号 |
26850179
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研究機関 | 帯広畜産大学 |
研究代表者 |
林田 京子 帯広畜産大学, 原虫病研究センター, 研究員 (40615514)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | Theileria orientalis / マダニ / ワクチン |
研究実績の概要 |
Theileria orientalisによる牛小型ピロプラズマ症は牛に貧血を引き起こし、我が国における主たる放牧病として大きな問題となっている。しかし、効果的なワクチン及び治療薬は未開発でありその候補となる原虫抗原もほとんど明らかでない。また本原虫は培養や実験動物を用いた実験が出来ない事もあり、基礎的研究が大きく立ち後れている。私はこのような状況を打破すべく、比較ゲノム解析によるin silicoでの抗原探索、および免疫不全マウスとマダニを用いたラボ内でのタイレリア感染実験系の確立に着手した。これまでにウシ血液置換免疫不全マウスを用いたT. orientalis原虫赤内型ステージの維持を行い、さらにこれら感染マウスをマダニに吸血させる事で、マダニ唾液腺内においてスポロゾイトを形成させる事に成功し、そのRNAを抽出してRNAseqを行った。本実験システムおよび得られた遺伝子発現データは今後T. orientalisの生物学特性を解明していく上で必要不可欠なツールとなりうる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は当初の計画通り、T. orientalis2株の比較ゲノム解析、進化選択圧解析とin silicoでのワクチン候補遺伝子の選定を完了できた。その結果候補に挙がってきた遺伝子が、すでに悪性タイレリアT. parva/T. annulataにおける有力なワクチン候補抗原であった事は、期待通りの結果であると言える。また、幾つかの条件検討を行った事により、ウシ血液置換免疫不全マウスとマダニを用いてT. orientalisの維持を安定して行う事ができるようになった。その結果、精製度の高い原虫を手に入れる事が可能となり、これら原虫を用いてRNA を精製する事が出来た。得られたRNAは当初の予定通り次世代シーケンサーでRNAseqを行い、解析に用いる十分な量と質のデータを得る事に成功した。これら一連の実験は当初の予定どおり、何ら問題なく順調に進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに比較ゲノム解析およびトランスクリプトーム解析により、T. orientalisの赤血球内・マダニ内における抗原候補遺伝子の選定がほぼ完了した。今後はこれらワクチン候補抗原の遺伝子多様性の評価、ワクチン候補遺伝子の生物学的特性を評価してゆく。すなわち、国内外で流行しているT. orientalisにおけるワクチン候補抗原の塩基配列を解読してその多様性を解析し、保存性の高い領域を絞り込む。また、候補抗原に対する抗血清を作製し、各原虫発育期における蛋白発現とその局在を解析する。こうしてワクチン候補として絞り込んだ遺伝子について、最終的には抗血清の受動免疫を行った感染マウスを用いて、そのワクチン評価を判定する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、初年度に見積もっていた額の多くは次世代シーケンサー試薬に用いるものであった。しかし当初の予定より精製度の高い試料が得られた事もあり、使用機種の変更を行ったことで予定の額を使用しなかった。従って多少の次年度の持ち越しが生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
持ち越した額は次年度以降の遺伝子解析費用等に充当してゆく予定である。具体的にはRNAseqに用いる生物学的レプリケートの追加を行いデータの精度を増すことや、ワクチン候補抗原の国内外の多様性を評価するシーケンスの費用に充当する。
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