Theileria orientalisによる牛小型ピロプラズマ症は牛に貧血を引き起こし、我が国における主たる放牧病として大きな問題となっている。しかし、効果的なワクチンおよび治療薬は未開発であり、その候補となる原虫抗原もほとんど明らかでない。そこで本研究では比較ゲノム解析、及び原虫各発育期のトランスクリプトーム解析に基づくワクチン抗原候補探索を行った。初めに、T. orientalis池田株・千歳株のゲノム情報を用いて全遺伝子について進化選択圧解析を行い、高いdNdSを示す、すなわち宿主免疫系に曝されている可能性のある遺伝子のリストを作成した。また、本種は培養をすることができず、牛・マダニにおける各発育期原虫を手に入れるのは容易ではない。そこでSCIDマウスの脾臓を外科的に摘出し、さらに牛の赤血球を輸血することによって牛タイレリア症のマウスモデルを作成した。それらをマダニに吸血させてスポロゾイトを得ることに成功し、これらピロプラズムとスポロゾイトの発育期原虫をトランスクリプトーム解析に供した。上記の進化選択圧と遺伝子発現情報の2つの情報を突き合わせワクチン抗原候補リストを決定した。本リストの中に、すでに海外悪性タイレリアであるT. parvaやT. annulataにおいて有望なワクチン候補とされているp67/SPAGのオルソログ抗原が含まれていた。そこで本抗原ToSPAGの組換え蛋白を作成してマウスに免疫して抗血清を得た。その結果、本ワクチン候補抗原はタイレリアスポロゾイト期において発現していることが確認された。今後、本ToSPAG抗原の牛小型ピロプラズマ症ワクチン候補としての検証を進めていくことが必須であると考えられる。
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