研究課題
本研究では、全てのA型インフルエンザウイルスに有効な治療法の開発を目指して、全ての亜型のA型インフルエンザウイルスHA蛋白質を中和するユニバーサル抗体を多数作出することを目的とする。HAは、血清型の違いにより、H1からH18までのHA亜型に分類される。HAはI型の膜蛋白質であり、細胞外領域は球状のhead領域と棒状のstalk領域からなる。HAはインフルエンザウイルスに対する液性免疫の主要ターゲットであり、インフルエンザウイルスの感染またはワクチン接種により、主にHAのhead領域に対する抗体が作られる。HAは免疫システムから逃れるために変異を重ねた結果、その抗原性が変化する。この血清型の違いおよび抗原性の変化がHAをターゲットとした医薬品開発の障害となっている。これまでに、複数の亜型のHAを中和するモノクローナル抗体が、ワクチン接種したヒトのメモリーB細胞・形質細胞や免疫したマウスから(わずかではあるが)分離されている。これらはHA亜型間で高度に保存されているHAのstalk領域を認識していた。さらに、全てのHA亜型(H1-H16)のstalk領域を認識し、調べた全てのHAを中和するモノクローナル抗体が1クローン分離された。これらの報告は、全HA亜型間で高度に保存されているHAstalkの免疫により、全亜型を認識し中和するモノクローナル抗体の作出が可能であることを示している。そこで本研究では、HA亜型間で高度に保存されたHAstalkを免疫し、全てのHA亜型のインフルエンザウイルスHA蛋白質を中和するユニバーサル抗体を多数作出する計画である。抗体が標的とするのは、全亜型のHAでの保存領域、つまりHA機能の必須領域であるため、耐性ウイルスの出現は少ないことが予想され、インフルエンザの新たな治療法の開発につながると期待できる。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、HA亜型間で高度に保存されたHAstalkを免疫し、全てのHA亜型のインフルエンザウイルスHA蛋白質を中和するユニバーサル抗体を多数作出する計画である。その際のHAstalk領域に対するモノクローナル抗体作製の免疫抗原として、表面にHAstalkを持つHIV Gagウイルス様粒子を使用する計画である。今年度は、免疫抗原について検討した。H1亜型のA/Puerto Rico/8/34 (PR8)(H1N1)およびH3亜型のA/Hong Kong/1/68 (H3N2)のHAからhead領域をさまざまな長さで欠損させたHAstalk領域の発現プラスミドを作製した。それらプラスミドを細胞にトランスフェクションし、発現するstalk蛋白質量を比較した。またHIV Gag発現プラスミドとともにトランスフェクションし、上清に放出されたstalk蛋白質量を比較し、条件検討を行った。
プラスミドのトランスフェクションにより培養上清に放出されたHAstalkを持つHIV Gagウイルス様粒子を、シクロースを用いたウイルス/VLP精製法にいより精製する。マウスに免疫し、抗体産生ハイブリドーマ法を作出する。抗体産生ハイブリドーマのスクリーニングには、HAstalkを持つHIV Gagウイルス様粒子を抗原としたELISAと、HAを全く持たないGagウイルス様粒子を抗原としたELISAを組み合わせ、HAstalkのみを認識する抗体を選別する。その後、免疫抗原とは異なるH5亜型およびH7亜型の精製インフルエンザウイルスまたは精製HA蛋白質を抗原としたELISAにより、さまざまなHA亜型を認識する抗体を選別する計画である。
次年度行う予定である、ハイブリドーマの培養、ELISAによる抗体産生ハイブリドーマのスクリーニング等には消耗品を非常に多く使用する計画であるため、次年度に使用する必要性が生じた。
次年度には抗体産生ハイブリドーマ法を作出する計画である。抗体産生ハイブリドーマのスクリーニングには、さまざまなELISAを行う計画であり、そのためには、細胞培養液類、プラスチック器具、抗体類、試薬類など非常に多くの消耗品を使用する計画である。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件)
PLoS Pathog.
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
----
J Virol.
巻: 88 ページ: 8981-8997
10.1128/JVI.00907-14.