今年度は計画書に記載したように、トキソプラズマ潜伏感染がウイルス感染動態に与える影響の解明を中心に実験を実施した。 トキソプラズマ潜伏感染マウスの脳内における抗ウイルス蛋白質の遺伝子発現動態をより詳細に調べる目的でリアルタイムPCRによる遺伝子発現定量解析を実施した。トキソプラズマ感染30日後におけるマウス脳内において、抗ウイルス蛋白質としての機能を持つOASやMx遺伝子の発現量が非感染マウスに比べ著しく上昇していた。一方、これら遺伝子発現の誘導に関するI型インターフェロンの発現量の上昇について検討したところ、有意差は認められなかったもののわずかに上昇する傾向にあった。今後、マウス数を増やし、感染後の動態をより詳細に追う必要がある。 トキソプラズマ潜伏感染動物がウイルスに対して抵抗性を獲得するかどうかを明らかにする目的で、原虫潜伏感染マウスに対してウイルスによる攻撃試験を行った。すなわち、原虫潜伏感染マウスに単純ヘルペスウイルス1 型(脳炎を起こすDNA ウイルスの代表)及び日本脳炎ウイルス(脳炎を起こすRNA ウイルスの代表)をそれぞれ脳内接種した。いずれのウイルス接種によっても、非原虫潜伏感染マウスではウイルス接種後2週間以内に全個体が死亡したのに対し、原虫潜伏感染マウスでは半数以上が生残し、症状も回復した。すなわち、トキソプラズマ潜伏感染動物がウイルスに対して抵抗性を獲得することが示された。現在、トキソプラズマ潜伏感染マウスにおけるこれらウイルスの増殖動態や、他のウイルスによる攻撃試験なども計画している。学外および学内共同研究者らにより狂犬病ウイルス、インフルエンザウイルスを入手したところであり、現在これらウイルスの増幅を行っているところである。
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