研究課題
本年度は、潜伏感染型トキソプラズマ虫体(ブラディゾイト)が誘導する抗ウイルス自然免疫応答の分子メカニズムを解明するために、I型インターフェロンによる抗ウイルス自然免疫シグナルのうちどの分子がトキソプラズマの影響を受けるかについて培養細胞を用いた実験系によって検討した。①トキソプラズマをヒト線維芽細胞に感染させたのち、培地のpHを8.1に上げることで虫体を刺激し、潜伏型ステージへと変換させた(ブラディゾイト感染群)。対照群として、pH=7の通常培地で発育させた虫体も用意した(タキゾイト感染群)。これら感染細胞における抗ウイルス蛋白質遺伝子の発現量をリアルタイムPCRにて評価した。その結果、ブラディゾイト感染群では、代表的なI型インターフェロン誘導型抗ウイルス遺伝子であるMx、OASならびにISG15の遺伝子発現量がタキゾイト感染群に比べて高くなっていることが確認された。すなわち、トキソプラズマはブラディゾイトに変換した際、何らかのメカニズムによって宿主抗ウイルス自然免疫応答を上昇させていることが示された。②I型インターフェロン誘導型抗ウイルス遺伝子の発現を制御する転写因子であるSTAT1に注目した。STAT1はI型インターフェロンの刺激を受けてリン酸化され活性化し、核内へと移行する。そこで、上述した培養細胞感染実験系を用いて、STAT1の活性化・核内移行について蛍光抗体法により検討した。その結果、タキゾイト感染群では原虫感染細胞のSTAT1はリン酸化されておらず、また核内への移行も見られなかったのに対し、ブラディゾイト感染群では原虫感染細胞におけるSTAT1のリン酸化ならびに核内移行が認められた。以上より、トキソプラズマ潜伏感染細胞ではSTAT1の活性化が起こり、その結果として抗ウイルス自然免疫関連遺伝子の発現上昇が起こっていることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
自然免疫に関わる最重要転写因子であるSTAT1が、ブラディゾイト感染細胞でのみ活性化していることを示した。タキゾイト感染では本現象はみられなかったことから、ブラディゾイト感染特異的な興味深い現象であることが示唆された。
最終年度は以下の計画を実施することで、本研究が対象とする事象の宿主側のシグナルパスウェイをより詳細に明らかにする。①ゲノム編集を用いたシグナル分子破壊宿主細胞の作出:宿主培養細胞を対象とし、CRISPR/Cas9システムを利用してI型IFNシグナルに関与する宿主因子(IRF-3、TBK-1、STAT1/2、IFNレセプター、IFN-alpha、IFN-betaなど)を欠損した細胞株をそれぞれ作成する。申請者はすでにCRISPR/Cas9システムを利用した細胞株樹立を進めている。樹立が困難な遺伝子の場合、当該遺伝子ノックアウトマウス由来線維芽細胞を入手する。②in vitro潜伏感染実験系を用いた解析:上記①にて作出された培養細胞に、トキソプラズマME49株を接種する。高pHまたはNOドナーといった刺激を与える事で、ブラディゾイトに誘導する。OAS1およびISG15など、抗ウイルス遺伝子発現量の変化をリアルタイムPCRによって解析する。これらにより、本事象に関わる重要な宿主因子及びシグナル経路を特定する。③宿主因子のクローニングと機能解析:本事象に関わると考えられる宿主因子をクローニングし、蛍光蛋白質タグ付加発現プラスミドを作出する。これを培養細胞に強制発現またはゲノム中に挿入させたうえでトキソプラズマME49株を接種し刺激を与え、ブラディゾイトに誘導する。宿主因子の動態を蛍光顕微鏡下で観察することで、トキソプラズマのステージ変換が本宿主因子に与える影響を可視化する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 3件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
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