研究実績の概要 |
慢性肝疾患(CLD)は肝硬変・肝癌へと進展する難治性疾患であり,その進展機序は十分に解明されていない.鉄代謝障害(鉄過剰)は,CLDの病態進展に関わるリスクファクターと考えられているが,鉄代謝障害が生じるメカニズムには不明点が多い.本研究では,鉄代謝障害に関わるマクロファージとサイトカインネットワークの変化に注目して,解析した.本年度の実績は以下の通りである.
1.チオアセトアミド(TAA)誘発慢性肝疾患モデルラットでは,肝線維化から肝硬変の進展期に,鉄過剰症およびhepcidinの発現低下がみられる.この時期には,MHC class II陽性抗原提示マクロファージの減少,サイトカインの発現上昇(CX3CL1,CCL28, CCR3, IL11, IL5Ra mRNA)および発現低下(CCL3, IL2, IL6, IL10, IL12 mRNA)が認められることを示した.よって,鉄過剰症が生じる病態進展期には,マクロファージ-サイトカイン軸のバランスが大きく変化することが示された.
2.clodronate-liposomes投与により肝マクロファージを枯渇させたラットでは,血清鉄の減少,hepcidin誘導に関わるIL6の発現減少,鉄の細胞内取り込みに関わるTFR1の発現減少がみられ,一過性の鉄代謝障害(鉄欠乏)が起こることが示された.よって,肝疾患のみならず,正常な肝臓においても,マクロファージが鉄代謝維持の一端を担っていることが示された.
|