研究実績の概要 |
慢性肝疾患は肝硬変・肝癌へと進展する難治性疾患であり,その進展機序の解明は重要である.慢性肝疾患において,鉄代謝障害(鉄過剰)は病態悪化につながるリスクファクターと考えられているが,そのメカニズムには不明点が多い.本研究では,慢性肝疾患の病態進展に関わる鉄過剰の役割に注目して,2種の慢性肝疾患モデルラットを用いて解析した.本年度の実績は以下の通りである.
1.チオアセトアミド(TAA)誘発肝硬変モデルラットでは,肝硬変の進展期に肝細胞に鉄蓄積が認められ,この細胞ではTUNEL陽性アポトーシスの減少およびBrdU陽性細胞増殖の減少傾向がみられた.さらに,TAA投与ラットに鉄過剰食を投与したところ,TAA誘発肝硬変の進展期において,肉眼的および病理組織学的に肝臓の線維化は顕著に抑制され,マクロファージ,T細胞およびNK細胞などの炎症細胞浸潤も抑制された.以上より,TAA誘発肝硬変モデルにおいて,鉄過剰は肝病変の抑制に関わる可能性が示された.
2.非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)モデルラットでは,鉄過剰食の投与により,マクロファージに鉄沈着が強く認められた.また,肝実質内の炎症巣数は増加し,血清中の肝酵素値(ALT, 総ビリルビン)も上昇傾向を示した.さらに,肝病変部における炎症性サイトカイン(TNF-α, IFN-γ, IL-1β, TGF-β)の遺伝子発現の上昇傾向がみられた.以上より,NASHモデルにおいて,鉄過剰は炎症の進展を介して,肝病変の増悪に関わる可能性が示された.
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