研究課題/領域番号 |
26850187
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
鈴木 由紀 日本大学, 生物資源科学部, 助教 (30712492)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 狂犬病ウイルス / 複製・転写調節 / RNA結合蛋白質 |
研究実績の概要 |
GenBankに登録されている野外狂犬病ウイルス119検体の全長ゲノム配列を回収し、6塩基以上連続して98%以上の塩基一致率を示す遺伝子領域をスクリーニングしたところ、(1)N遺伝子5’末端の3’UTRからおよそ100塩基のコーディング領域の同義置換サイトと、(2)M遺伝子の3’UTRにおいて、数十塩基に渡りRNAレベルで高度に保存される遺伝子領域が明らかになった。これまでの他のウイルスにおける実験報告から予測される機能としては、例えば、N遺伝子のコーディング領域は、プロモーターやウイルスゲノムのパッケージングに関わっている可能性がある。また、M遺伝子の3’UTRは、例えば宿主蛋白質が結合することによって、M遺伝子の翻訳後調節を行っている可能性がある。さらに、塩基レベルで連続して保存される遺伝子領域ではRNAの二次構造が観察されることがある。そこでこれらの可能性について検証するために、最初に、狂犬病ウイルスの固定株であるRC-HL株のM遺伝子3’UTR のクローニングを行い、合成したRNAを用いてゲルシフトアッセイを行った。ゲルシフトアッセイに用いた蛋白質は狂犬病ウイルス感受性細胞であるマウス神経芽(NA)細胞およびベビーハムスター腎臓(BHK)細胞から回収した蛋白質であった。M遺伝子3’UTRに対するcompetitorも用いてゲルシフトアッセイを行った結果、M遺伝子の3’UTRに宿主蛋白質が結合することを確認した。そこでUV crosslinkingによりM遺伝子3’UTRに結合する宿主蛋白質の分子量を確認したところ、約140kDa付近の蛋白質が結合していることが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度に計画をしていた野外で流行している狂犬病ウイルスゲノムにおけるRNAレベルの高度保存領域の検出およびレポーターアッセイ等に使用するプラスミドの構築は終わっており、さらにM遺伝子3’UTRに結合するRNA結合蛋白質の存在も明らかになったため、本課題はおおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)狂犬病ウイルスM遺伝子3’UTR結合蛋白質の同定:M遺伝子3’UTRに結合する宿主蛋白質の種類を同定するために、合成したM遺伝子3’UTRにビオチン標識を行い、アビジンビーズを用いてプルダウンアッセイを行う。プルダウンアッセイによって回収された結合蛋白質は、ペプチドシークエンスやLC-MSによって蛋白質の種類を同定する。また、同定された蛋白質が実際の狂犬病ウイルス感染においてもM遺伝子3’UTRに結合していることを確認するために、狂犬病ウイルスに感染した細胞から回収した蛋白質を用いて免疫沈降およびノーザンブロットを行う。 (2)M遺伝子3’UTRがRNAの翻訳後調節に与える影響:M遺伝子3’UTRが翻訳後調節に関わっている可能性を検討するために、luciferase遺伝子の下流にM遺伝子3’UTRを挿入し、レポーターアッセイを行う。 (3)RNA結合蛋白質の結合領域の同定:M遺伝子3’UTRはおよそ200ntにわたっており、RNAレベルで高度に保存されている領域は複数箇所に分かれて存在しているため、このような遺伝子領域がRNA結合蛋白質の結合領域である可能性がある。そこで蛋白質結合領域を決定するために、保存領域を欠損したM遺伝子3’UTRを合成し、再度、UVクロスリンキングを行うことによって蛋白質の結合が失われる遺伝子領域を決定する。 (4)RNA結合蛋白質の機能:RNA結合蛋白質が狂犬病ウイルスの複製サイクルで果たしている役割を明らかにするために、siRNAを用いて結合蛋白質のノックダウンを行い、狂犬病ウイルスの複製に与える影響を調べる。また、高度保存領域を欠失した組換え狂犬病ウイルスを作成し、ウイルスの複製効率に及ぼす影響を明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
組換えの狂犬病ウイルスを作製するためにplasmid構築を一から行う予定であったが、国立感染症研究所より分与していただくことができたので、plasmid構築に使用する試薬一式を購入する必要がなくなったことにより、次年度使用額が生じた。次年度使用額は狂犬病ウイルスのRNAに結合する宿主蛋白質の同定(ペプチドシークエンスなど)に使用する予定である。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は狂犬病ウイルスの高度保存領域の機能解析および結合蛋白質の同定を進める予定であり、これらの実験に使用する試薬・機器を購入する予定である。また、得られた研究成果を発表するために、日本獣医学会学術集会や日本ウイルス学会などの参加費用、英文校閲費、学術専門雑誌の投稿料の支払いになどに研究経費を使用する予定である。
|