研究課題/領域番号 |
26850188
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
佐藤 真伍 日本大学, 生物資源科学部, 助手 (60708593)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | Bartonella quintana / ニホンザル / 塹壕熱 / MLST |
研究実績の概要 |
【研究実績】 Bartonella quintanaは塹壕熱の病原体として第一・二次世界大戦時に兵士に大流行した細菌で,人が本菌の自然宿主である。近年,中国や米国で飼育されていたMacaca属のサルからB. quintanaが分離されたことから,サルも自然宿主である可能性が示された。平成26年度の当該研究では,野生のニホンザル(Macaca fuscata)におけるB. quintanaの分布状況を明らかにするとともに,その遺伝子性状を詳細に解析し,人と同様にサルも本菌の自然宿主である可能性を検討した。 青森・山形・和歌山県から野生のニホンザル血液45検体を採取し,B. quintanaの分離を試みた。その結果,6検体(13.3%)のニホンザル血液からB. quintanaが分離された。陽性個体の血中菌数は50~37,000CFU/mlと高く、いずれの個体も臨床症状も示していなかった。陽性個体の分離株から代表株を1株ずつ選抜し(計6株),Multi locus-sequence typing(MLST)法によってSequence Type(ST)を調べた結果,いずれの株も新規のST22に型別された。e-BURSTならびに系統樹によってニホンザル由来株(ST22)とヒト(STs1-7)およびカニクイザル(STs8-14),アカゲザル(STs15-21)由来株の系統関係を調べると,B. quintanaは宿主動物ごとに4つのグループに分類された。 以上の結果から,野生のニホンザルはB. quintanaの新たな自然宿主であることが明らかになったとともに,本菌は宿主の動物種ごとに共進化している可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の実施計画では,野生のニホンザルにおけるB. quintanaの分布状況と分離株の遺伝子性状から,サルと本菌の共進化を解明することが目的であった。その結果,B. quintanaはサルや人とともに共進化している可能性を示す結果が得られたことから,当該研究はおおむね順調に進展していると思われる。 当初の実施計画では,realimePCR法によって野生のニホンザルにおけるB. quintanaの分布状況を検討予定であったが,Bartonella DNAが検出されたサル血液3検体から本菌が分離されたことから,分離培養法によって分布状況を評価できていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の実施計画では,人に対するニホンザル由来B. quintanaの病原性を解析する予定である。 平成26年度内に人赤血球に対するニホンザル由来B. quintanaの接着能を既に検討しており,人由来細胞を使った感染実験の条件検討を完了している。 また,当初の実施計画では,人赤血球のみを用いる予定であったが,B. quintanaを含むBartonella菌は宿主動物の血管内皮細胞に対しても感染性を有することが知られている。今後,人由来の赤血球のみならず血管内皮細胞に対してもニホンザル由来B. quintanaが接着・侵入・増殖する可能性をin vitro下で評価していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ドイツで開催予定の国際Bartonella学会において,当該年度の研究成果を発表する計画であったが,主催者側の都合により急遽開催が延期された。その結果,当該年度に計上していた旅費(300,000円)を使用できなかったため,上記の次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度の国際Bartonella学会の開催時期は未定であることから,次年度に繰り越した助成金の一部を使用して,他の国際学会において平成26年度の研究成果を発表する予定である。 サル由来B. quintanaの感染実験に使用する人血管内皮細胞は,特殊な培地類を必要とし,また株化されておらず,繰り返しの継代培養に耐えられないことから,本実験には新たな細胞と培地類を随時購入する必要がある。以上から,次年度に繰り越された助成金の一部を使用して,各種実験試薬類を購入し,平成27年度の実施計画が滞ることのないよう研究を展開していく計画である。
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