研究実績の概要 |
鳥由来A型インフルエンザウイルス(AIV)の豚での増殖能の獲得は、パンデミックウイルス出現の重要なステップの一つであると考えられる。これまでに鳥と豚の体温の違いに着目し、AIVを豚肺胞上皮細胞で低温条件で連続継代することで、低温で高い増殖能を持つAIVを得た。本研究では、低温馴化に伴ってウイルス遺伝子に導入される塩基置換の機能を明らかにし、AIVが豚で長期間維持されるために必要なウイルス側の要因を明らかにすることを目的としている。 高温条件(41℃)で高い増殖能を持つA/whistling swan/Shimane/580/2002(H5N3) (Shimane株)の野生型株及び豚肺胞上皮細胞で低温条件(33℃)で14代継代後のウイルスのポリメラーゼ遺伝子(PB2とPB1)に認められた各塩基置換を導入した変異型Shimane株をリバースジェネティクス法でそれぞれ作製した。MDCK細胞を用いた温度別増殖能を比較した結果、PB2とPB1遺伝子に認められた塩基置換を単独又は複数導入した変異型Shimane株は、高温条件(41℃)よりも低温条件(33℃)で高い増殖能を示した。さらに、Shimane株の野生型リボヌクレオプロテイン複合体(RNP;PB2, PB1, PA, NPの複合体)とPB2とPB1遺伝子の塩基置換を導入した変異型RNPのMDCK細胞内におけるポリメラーゼ活性を比較した結果、PB2変異型RNPのポリメラーゼ活性は、33℃側で野生型RNPよりも有意に高く、PB1変異型RNPは、41℃で野生型よりも有意に低かった。以上の結果から、本研究で野鳥由来AIVの低温馴化に伴うウイルスポリメラーゼに認められた非同義置換が宿主特異性に関与している可能性を得た。
|