研究課題/領域番号 |
26850193
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤原 玲奈 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (60456176)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 脊髄損傷 / バイオマーカー / リン酸化ニューロフィラメント重鎖 |
研究実績の概要 |
当初の予定では、東京大学動物医療センターに来院した胸腰部椎間板ヘルニアの症例から新たにサンプルを収集する予定であったが、重症度の高い症例では慢性期症例が多かったため、主に保存血清を用い、希釈率を高めてELISA測定を行い、正確な濃度を明らかにした。受傷後急性期において、血中へのpNF-H漏出はわずかであり、予後との相関は認められず、診断的意義は低かった。しかし、血中pNF-H濃度は受傷後4,5日から上昇し、約10日でピークに達した。その後、血中濃度は次第に減少し、受傷後1か月前後で消失した。重症度が高いほどピーク時の濃度が高い傾向が認められ、特に200ng/mL以上の血中濃度上昇がみられた症例は、全て最も重症度の高いグレード5であり、術後の自力歩行回復も認められなかった。また、同一サンプルを用いて、脊髄損傷のバイオマーカーとして有用性が報告されているグリア線維性酸性タンパク(GFAP)濃度の測定も行ったところ、GFAPは受傷後急性期にのみ検出され、血中濃度の上昇はみられなかった。次に、犬においてpNF-Hの血中消失半減期を測定したところ、190分であることが明らかとなった。これらのことから、受傷後の血中pNF-H濃度変化は中枢からの漏出変化をほぼ即時的に反映しており、急性期においては、機械的損傷による血中への漏出を反映するが、経時的に測定することにより、二次損傷による組織損傷の進行をモニタリングできる可能性が示された。また、頚部椎間板ヘルニアにおいても同様に血中pNF-H濃度を測定したが、胸腰部椎間板ヘルニアと比較すると濃度上昇は緩徐で、術直後に歩行能力が回復症例が多く、両者の病態の違いが反映されている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
犬の脊髄損傷の症例を用いて、pNF-Hを経時的に測定した。従来、予算の都合上、測定閾値を超えたサンプルについて正確な濃度を求められなかったが、保存血清を希釈し、再測定を行うことで正確な濃度を測定できた結果、重症度が高く、予後不良な症例では血中濃度のピークが顕著に高く、他の症例との明確な差を明らかにできた。また、犬における血中消失半減期を求められたことから、濃度変化が即時的な血中漏出の変化をとらえていることが明らかとなり、今後の研究の基盤的情報を得ることができた。また、当初の計画以上に、頚部脊髄損傷を含む様々な脊髄損傷症例のサンプルを付加的に測定し、pNF-Hが他の脊髄疾患にも利用可能である可能性を見出しており、計画以上に進展したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後はリハビリテーションなど、術後の治療介入を行った症例について経時的にpNF-Hを測定し、積極的なリハビリテーションが脊髄損傷の進行や再発を誘発する可能性に対して血中pNF-H濃度測定が診断的意義を持つかを検証する。また、亜急性期におけるpNF-H濃度変化が単純に二次損傷による組織破壊の進行であるか、あるいは損傷を受けた軸索の神経線維を投射する神経細胞においてNF-H産生が亢進している可能性も考えられるため、ラット脊髄損傷において血中濃度変化の意義をさらに検証する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ELISAの再測定が当初の見込みよりもうまくいき、再度ELISAを購入する必要が生じなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
新たに実験動物モデルを用いた実験を組み込むことを想定し、実験動物の購入費、モデル作製における手術器具等にあてる予定である。
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