水溶性食物繊維であるペクチンを摂取することでアレルギー病態が緩和されることが示唆されている。しかしながら,その詳細な作用機序は不明なままである。本研究では,アレルギー治療補助食品あるいは機能性食品としてペクチンを利用するための分子基盤を確立するため,ペクチンによるアレルギー予防・治療効果を検討し,そのメカニズムを明らかにすることを目的とする。 柑橘由来ペクチンをマウスに摂取させた後,水酸化アルミニウムゲルアジュバントと卵白オボアルブミン(OVA)で免疫し,血清を経時的に採取した。血中の抗体濃度及びOVA特異的抗体価を測定した結果,IgG1濃度ならびにOVA特異的IgG1抗体価が対照群に比べて有意に減少した。さらにこのマウスにOVAを経口投与し,アレルギー性の下痢を誘導すると,ペクチン摂取群では下痢の発症頻度と重症度が対照群に比べ減少する傾向が観察された。腸間膜リンパ節のT細胞分化関連遺伝子の発現量はペクチン摂取群と対照群で同程度であった。さらに柑橘由来ペクチンをマウスに摂取させた後,受動性アナフィラキシーを誘導し体温を測定したところ,ペクチン摂取群は対照群と同程度の体温低下を示した。以上の結果よりペクチンはマスト細胞やT細胞には影響を及ぼさず,アレルゲン特異的なIgG1産生を調節している可能性が示唆された。抗原提示細胞であるマクロファージへペクチンを添加し,共刺激分子の発現量を測定した結果,IgEとIgG1のクラススイッチに関与するInducible T-cell costimulator (ICOS)のリガンドであるICOSLの発現量が有意に低下していたことから,ペクチンは抗原提示細胞の機能を調節することでIgG1抗体の産生を調節している可能性が示唆された。 以上の結果より,ペクチンが食物アレルギーの発症を予防する機能性食品素材として利用できる可能性が示された。
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