本研究は間葉系幹細胞より作製した細胞シートが関節軟骨再生に与える影響の評価を目的としていた。本研究にはヒトの骨格に大きさが近いウシを用いて評価を行う計画であった。しかしながら、ウシの細胞シートは強度が非常に低く(ピンセットで摘むと崩れる程度)、作製成功率も低かったため、実用に耐えられないと判断された。また、活性酸素に曝された細胞シートは、シート状の形態を維持できず、崩壊することも明らかとなった。 以上の点から、細胞シートの強度向上と、関節軟骨損傷部位の活性酸素の状態の評価は、細胞シートの移植を試みる前に解決するべき必須の課題であった。細胞シートの強度向上は積層化による可能性が示されていたため、もう一方の課題である活性酸素の評価を実施することとした。関節軟骨損傷などの関節炎発生時には、関節液に活性酸素が発生することがヒトで報告されているが、ヒトでは健康側からのサンプル採取が不能などの理由から、コントロールを設定した報告が少なく、実態は不明なことが多い。 したがって、関節液中の活性酸素の評価を実施した。本研究には、ウシと同様の大型動物であり、関節軟骨損傷を好発するウマを用いた。片側性の関節内剥離骨折により関節炎を起こしたウマ19頭の関節液を採取(罹患群)し、また同時に対側の関節からも関節液を採取し、これをコントロール群とした。得られた関節液を用い、活性酸素産生の指標であるd-ROMs、抗酸化物質の指標であるBAPを測定した。この結果、罹患群ではd-ROMsの有意な上昇、BAPの有意な低下が観察された。このため、関節炎発生時は活性酸素が発生し、抗酸化物質が消耗されていることが、コントロールを設定した状況で明らかとなった。 この結果から、抗酸化物質の関節内投与等により、活性酸素の除去を行ってから細胞シートの移植を試みる必要があると考えられた。
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