研究課題/領域番号 |
26850199
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
安藤 貴朗 鹿児島大学, 共同獣医学部, 准教授 (40406898)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 子宮機能 / 牛 / 獣医繁殖 / 臨床診断 / 子宮免疫 |
研究実績の概要 |
肉用牛の生産で優先されるのは多数の産子を獲得して収益を上げることであり、牛の妊娠率を上昇させることは生産性の向上に不可欠である。本研究では、黒毛和種牛について分娩後の子宮機能評価を行い、子宮疾患に対する臨床的な診断法の確立を目的とする。 平成26年度は、分娩後の牛における子宮の炎症反応と免疫機能、子宮血流動態、細菌感染についての生理的な変動を調査するため、黒毛和種雌牛10頭について分娩2週後、4週後、6週後における血液検査(血液生化学検査、血中ホルモン測定、末梢血白血球サブセット解析)、子宮灌流液検査(細菌培養、灌流液中白血球サブセット解析)、生殖器の超音波画像検査(卵巣および子宮Bモード解析、子宮血流ドプラ解析)を実施した。その結果、分娩2週後の子宮灌流液について5頭(50%)より細菌が分離されたため、細菌感染群と無菌群(5頭)に分けて成績を比較した。 分娩後の子宮形態の変化について超音波画像検査では、妊娠側の子宮角外径および子宮動脈血流量は両群ともに分娩2週後から4週後に有意に減少した(p<0.05)。子宮内膜の高輝度領域および子宮内貯留物は、分娩2週後には両群ともにすべての牛で認められたが、分娩4週後には無菌群では3頭および2頭と減少したのに対し、細菌感染群では5頭すべてに認められた。 分娩後の子宮灌流液中の細胞数は、分娩2週後から6週後にかけて細菌感染群および無菌群の両群ともに有意に減少した(p<0.05)。分娩2週後において、多核球数は細菌感染群で無菌群に比較して有意な高値を示したが(p<0.05)、単核球数は有意に低値であった(p<0.05)。また、分娩2週後の白血球サブセット解析では、細菌感染群で無菌群に比較してCD4陽性T細胞数、CD8陽性T細胞数、CD14陽性単球数が有意に低値を示した(p<0.05)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究では、分娩後の牛の子宮機能評価として超音波画像検査による子宮内膜輝度および子宮内貯留物、子宮潅流液検査による多核球数が、分娩2週後の細菌感染の有無を強く反映していることが明らかとなった。今回の成績は臨床的に健康な牛を対象としたたが、これらの中で分娩2週後に細菌感染が認められたものは子宮疾患群として、次年度の研究における細菌感染を伴う臨床的子宮内膜炎の症例として分類をする。一方、分娩後の子宮機能評価法を確立するために、分娩2週後に細菌感染が認められない牛の症例数を増やすため、次年度においても分娩経過による変化の観察を継続することとする。
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今後の研究の推進方策 |
(1)分娩後の子宮機能評価のマニュアル作成 分娩後の子宮機能評価の対象牛として10頭の症例を確保したが、うち5頭については臨床症状で異常は認められなかったものの、分娩2週後に子宮内より細菌が分離された。そのため、子宮内の細菌感染が確認された5頭は子宮疾患牛に分類し、細菌が分離されない無菌牛については症例数を増やして、それらをもとに子宮機能評価マニュアルを完成させる。 (2)臨床的な子宮機能診断法の確立 分娩後に子宮内より細菌が分離される牛については、妊娠率の低下による長期不受胎や治療費の増加から経済性が損なわれることが推察される。これらの牛をできる限り早期に摘発するため、臨床現場における検査が困難な子宮潅流液検査を用いた細菌検査や白血球検査の代替として、超音波検査法などの臨床検査の解析法や分娩後の検査実施時期を確立し、子宮疾患に対する臨床診断法を確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由として、分娩後の子宮機能検査として予定していた子宮灌流液中の細菌検査について、既報にあった乳用牛と同程度の細菌感染率を想定していたが、本研究において対象とした黒毛和種牛については細菌感染率が当初の予想ほど高率ではなかった。そのため、細菌同定に使用する試薬の使用量が当初計画に比較して少なく、物品費の執行額が少なくなった。 また、旅費の支出として研究成果発表として学会発表を行ったが、当初予定よりも運賃等の移動費を低く抑えることができたため当年度使用額が削減された。さらにその他の項目として、学術論文投稿にかかる費用を計上していたが、調査の対象とした牛の検査データから、次年度に追加のデータを採取することで論文作成を行うことが適当と判断したため、学術論文投稿に関わる費用については次年度の論文投稿と合わせて行うこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の研究計画として、臨床的な子宮機能診断法を確立するため、子宮内に細菌感染した症例数を増加することで評価精度を上昇させるため、これら細菌の分離および同定に関わる物品については試薬の使用期限も考慮して次年度に購入することとした。 また、その他の項目として予定していた学術論文の投稿経費については、本年度に予定していた分娩後の子宮機能評価に関する症例の追加およびデータ採取、解析が終わりしだい論文作成および投稿を行うことで予算の使用を計画している。
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