研究課題
クマ類は冬眠中、長期の絶食状態および不活動状態であるにもかかわらず、骨格筋の萎縮がほとんど生じないという驚くべき仕組みを有している。本研究ではなぜこのことが可能であるのかを知るため、冬眠中のツキノワグマにおける筋タンパク合成/分解メカニズムの変化を明らかにすることを目的としている。平成27年度は以下の研究を実施した。メタボローム解析による冬眠中の骨格筋における代謝プロファイルの解明:クマを麻酔により不動化し、外側広筋より組織を採取した。得られた組織は急速冷凍し、―80℃にて保管した。サンプリングは成獣メスツキノワグマ5個体を対象とし、冬眠中盤時期である平成26年2月に実施した。比較対象として、クマの活動期に該当する平成27年6月に同一個体よりサンプリングを実施し、メタボローム解析による代謝プロファイルの比較を行った。この結果、冬眠期においては解糖系およびTCA回路における中間代謝物質の一部が有意に減少していた。また、骨格筋における冬眠中のアミノ酸濃度は総必須・総非必須アミノ酸共に増加しており、特にタンパク質合成を促進することが知られている必須アミノ酸である、分岐鎖アミノ酸(バリン・ロイシン・イソロイシン)はいずれも有意に増加していた。このため、分岐鎖アミノ酸の分解に関わる酵素群(分岐鎖アミノ酸転移酵素:BCAT2および分岐鎖α-ケト脱水素酵素複合体:BCKDH)のmRNA発現量をリアルタイムPCR法を用いて比較したところ、いずれも冬眠中に有意な減少を認めた。これらのことから、クマにおいて冬眠中、骨格筋の軽微な分解が生じ、組織中のアミノ酸濃度が上昇するものの、必須アミノ酸を初めとしたアミノ酸の異化経路が抑制されていることが、骨格筋の萎縮が生じない一因であることが明らかとなった。
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Comparative Biochemistry and Physiology, Part B
巻: 196-197 ページ: 38-47
doi: 10.1016/j.cbpb.2016.02.001.