本研究は、これまで遺伝学・分子生物学的解析により胚発生カスケードの知見を踏まえた、新たなマウス胚発生の形態学的アトラスの再構築を試み、未だ理解の進んでいない着床期~発生初期の胚発生の解明や体外胚培養法の確立などにつながる基礎データの獲得を目的とする。母体である子宮組織との相互作用によりマウス胚発生がどのように進行するかを空間的かつ包括的に理解するため、胎齢3~8日までの胎子および子宮組織の連続切片を作成し、HE染色による組織像の観察を実施した。妊娠した子宮組織標本作成時の固定方法の検討により、10%中性緩衝ホルマリン固定を標準法と決定した。また、発生ステージなどを含めた個体差の詳細な検討も行い、着床過程でどのようにマウス胚並びに子宮組織が空間的に変化しているかの形態観察ならびに、縦断面並びに横断面方向の切片における各部位の長さなどの測定を行った。加えて、主に基底膜を構成する細胞外基質の局在を免疫染色により観察した。これらにより、胚発生の形態学的アトラスを再構築した。その中で注目すべき現象として、着床が起こる胎齢4.5日における胚並びに子宮組織のダイナミックな形態変化が挙げられる。この時期に胚盤胞のabembryonic pole(胚体と反対側)の栄養膜細胞が子宮上皮と接着し、その後子宮上皮の胚の取り込みと上皮構造から脱落膜への形態変化を詳細に観察した。また、その際に細胞外基質の局在パターンが大きく変化することを確認した。このように最初の胚盤胞と子宮上皮の接着は、非常に小さい領域の現象であるにも関わらず、これと比較してかなりスケールの大きい子宮全体のダイナミックな変化を一気に誘起することが形態的に観察できた。
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