本研究では、遺伝子導入した皮膚線維芽細胞を局所投与して、生体内環境を利用して骨形成細胞に直接転換させ、簡便に臨床応用できる骨再生医療の基盤技術を確立させることを目的とした。前年度で確立させた手法を用いて、馬の真皮組織から多数の皮膚線維芽細胞を抽出した。これらの細胞群からより分化能の高い前駆細胞をフローサイトメトリーにて選別するため、①CD90のみに陽性の細胞群、②CD90とCD34の両方に陽性の細胞群、③三つともに陽性の細胞群を選別してみたところ、②と③の細胞群において、三種類の表面抗原を有する細胞を最も効率的に選別できることが分かった。さらに、これらの細胞を、骨分化用培地を用いて培養したところ、①および無選別の皮膚線維芽細胞に比較して、②および③の細胞群において、骨形成に関わる遺伝子が有意に活性化しており、またVon Kossa染色で視認されたミネラル小瘤の数も、②と③では有意に多かったことが確認された。次の段階として、当初は、BMPの遺伝子を導入させた細胞の局所注射を予定していたが、組み換え遺伝子実験を馬という大動物を使って行うことが研究施設内において難しい事から、遺伝子導入を介さない手法を検討するため、BMPの蛋白を添加して培養した細胞における骨分化能を評価した。上述のように、フローサイトメトリー法で選別した細胞を、BMP蛋白を含んだ培地を用いて培養させたところ、無選別の皮膚線維芽細胞に比較して、①~③の細胞群において、骨形成に関わる遺伝子の活性、および、染色されたミネラル小瘤の数が有意に向上していた。これらの結果から、皮膚から分離した細胞群に含まれる前駆細胞を、フローサイトメトリー法で特異的に分離したあと、その細胞をBMP蛋白と混ぜて局所投与することで、迅速な骨の再生医療が可能であることが示唆された。
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