温室効果ガス一酸化二窒素(N2O)の主な発生源は、土壌に存在する脱窒菌等の窒素循環に関わる微生物であるといわれている。しかし葉菜類の作物体やその残さからも発生する。我々は既に圃場で発生するN2Oが土壌からではなく作物体から直接発生していることを突き止めた。作物体の成分などから、このN2O発生は作物体に存在する脱窒菌によるものであると考え、作物体に存在する脱窒菌のN2O発生メカニズムを明らかにすることを目的とした。 前年度までに約60株の脱窒菌を分離した。それらの持つ16S rRNA遺伝子の塩基配列を用いて分離株を簡易的に分類した。さらに活性の安定している菌株を選抜してそれを用いてN2O発生における酸素濃度の影響を調べた。 本年度はこの代表菌株のゲノムを明らかにした。その結果、この菌株は植物と関わりの深い微生物群に属していた。分離株に最も近縁なものは全ゲノムが明らかになっている既知の脱窒菌であり、その代謝経路は明らかにされている。そこでその既知脱窒菌と代表菌株との脱窒遺伝子を比較したところ、両者は類似しており、ともにN2Oを脱窒の最終生産物とすると推定された。この結果に基づき、脱窒の最終生産物を安定同位体を用いたGC-MS分析により調べたところ、やはり脱窒の最終生産物はN2Oであった。現在、メタボローム解析とトランスクリプトーム解析を進めており、それらの解析結果を統合することで作物体における脱窒とN2O発生のメカニズムが明らかになると考えている。
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