研究課題/領域番号 |
26850230
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
早川 晃司 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (50636800)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | リンカーヒストン / 核小体 / エピジェネティクス / クロマチン |
研究実績の概要 |
本研究はリンカーヒストンバリアントの一つであるH1Tの核小体形成および機能に対する役割を明らかにすることを目的としている。本年度では、H1Tの発現プロファイル、細胞内局在を明らかにした。 H1Tは精巣特異的なリンカーヒストンとして知られており、本研究でも高い発現を示すことを確認した。しかし、RT-PCR法によりH1T mRNAの発現レベルを解析したところ、精巣に比べ発現が弱いものの解析に用いたすべての癌由来細胞でH1Tの発現が確認された。また、正常細胞においては筋原細胞および胃でH1Tは発現していた。この結果から、未分化性を示す細胞でH1Tが発現していることが考えられた。そこでマウス胚性幹細胞(ES細胞)においてH1Tの発現を調べたところ、発現が確認され、その発現は分化に伴い減少することが分かった。 次に本研究において作製したH1T特異抗体を用いてH1Tの細胞内局在を調べた。その結果、H1T発現細胞では細胞種に関わらずH1Tは核小体に局在していた。H1Tは核小体内で機能を有することが期待されたため、まずH1Tの発現レベルと核小体のサイズとの関係について解析した。その結果、これまでの報告通り核小体のサイズは細胞増殖能とは相関していたが、H1Tの発現レベルとの間には相関は認められなかった。核小体内にはpre-rRNAをコードしているrDNA領域が存在し、rRNAの転写と精製の場となっている。そこで、H1Tの強制発現とshRNAによる発現抑制を行い、pre-rRNAの転写量をRT-PCRによって解析した。胃癌細胞株AGSと乳腺癌細胞株MDA-MB-231で解析を行った結果、H1Tはpre-rRNAの発現に対して抑制的に働くことが分かった。 以上より、H1Tはこれまで知られていた精巣以外でも発現していること、発現している細胞では核小体に局在し、rRNAの発現を抑制する機能を有することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画通り研究が遂行できた。H1Tの発現プロファイルを明らかにすることができ、これまで報告されていた精原細胞のみならず、癌細胞、未分化細胞および多能性幹細胞でも発現していること、発現している細胞では細胞種問わずH1Tは核小体に強く局在している、という結論を導き出すことができた。また、H1T強制発現および発現抑制実験の結果からH1TはrRNAの転写に対して抑制的に働く機能があることも見出すことができた。 また、H1T特異抗体を用いたクロマチン免疫沈降―シークエンス(ChIP-seq)解析のデータも胃癌細胞AGSと乳腺癌細胞MDA-MB-231の2種類の細胞種において取得でき、次年度に向けての準備もすることができた。 以上から、「当初の計画以上に進展している」と自己評価するに至った。
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今後の研究の推進方策 |
次年度ではrDNA領域内におけるH1T結合領域の同定を行う。H1Tが核小体に局在しrRNAの転写に対して抑制的に働くことを考えると、H1Tの働きとしてrDNA領域に結合しクロマチンの構造変化に寄与している可能性が高い。そこでChIP-seq法により、H1TがrDNA領域に結合しているか、その場合領域内のどこに局在をしているかを明らかにする。ChIP-seq法を用いることにより、約50kbにもおよぶrDNA領域全域のH1Tの結合状態を調べることができる。また、これまでに公開されている他のリンカーヒストンバリアントのChIP-seqデータと比較することにより、H1Tの領域特異性を浮かび上がらせる。ChIP-seqのデータを取得すれば、rDNA領域のみならずゲノム全域のH1T結合領域を明らかとすることができるため、「rDNA vs 遺伝子領域」の比較を行い、それぞれの領域におけるH1Tの機能差異が存在し得るかを公共データベース(NCBIやDDBJ等)に蓄積されている遺伝子発現データ等を組み合わせることによって明らかとしていく。 これまでに、H1TはrRNAの発現に対して抑制的に働く機能を有することが明らかとなった。そこで、H1Tが特に強く局在している領域のエピジェネティック状態をヒストンアセチル化およびメチル化抗体を用いて調べ、クロマチン弛緩・凝集状態はDNaseI感受性法によって明らかとする。
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