H28年度は前年度に引き続き腸球菌V-ATPaseの活性消失型変異NtpK(E139D)に対するサプレッサー変異株の解析を中心に行った。E139D変異を抑圧する変異部位は、イオン輸送とATP加水分解の共役に関係する可能性が高く、V-ATPaseの反応過程において重要な役割を果たしていると考えられる。 単離したサプレッサー変異候補(E50K/E139DとV138I/E139D)について、E50K,V138Iの単一変異およびE139Dとの二重変異体の生化学的解析を行った結果、E50Kの単一変異でもV-ATPase活性が低下することが示唆された。E50K/E139DとV138I/E139D二重変異体のV-ATPase活性回復はいずれも部分的であった。E50KおよびV138I変異は、必須残基であるE139Dの立体的位置に影響を与え、E139D変異型酵素の活性を回復させていると考えられるが、この点については精製酵素を用いた速度論的解析などが必要である。 さらに腸球菌V-ATPaseのイオン選択性に関わるアミノ酸残基を明らかにするために、Vo部分のNtpKおよびNtpIサブユニットに対してランダム変異導入を行い、高ナトリウムもしくはリチウム濃度培地を用いたスクリーニングを行った。その結果、発現量ではなく、V-ATPase活性が低下した変異体を複数単離し、NtpK(E50D)およびNtpK(G27R)変異を同定した。NtpIについては変異部位を確認中である。このうちNtpK(E50D)変異により高ナトリウム濃度培地における生育が抑制され、ナトリウム排出活性が野生株の50%程度に低下したことから、改めてNtpKのE50残基がイオン輸送に関わる重要なアミノ酸残基であることが示唆された。E50残基はNtpKローターリングと回転軸NtpCサブユニットとの相互作用に関わる位置に存在すると考えられることから、V-ATPaseの複合体形成や酵素の回転反応に関与している可能性がある。以上の成果についてH28年度に4件の学会発表を行い、現在論文投稿中である。
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