研究実績の概要 |
今年度はロジウム(II)カルボキシラート錯体Rh2(S-PTTL)4を用いる分子内不斉C-H挿入反応の開発と応用研究を行い、以下の成果を得た。 (1)ジアゾ基質として従来顧みられることのなかったジアリールジアゾメタンのC-H挿入反応を機軸として(-)-マキシモールAの合成を行った。ヒドラゾンを二酸化マンガンで酸化して得られたジアリールジアゾメタンを単離することなく用いて分子内C-H挿入反応を行ったところ、Rh2(S-PTTL)4のフタルイミド基の水素原子をフッ素原子で置き換えたRh2(S-TFPTTL)4を触媒とした場合に(-)-マキシモールAのコア構造である2,3-ジアリール-2,3-ジヒドロベンゾフランが完璧なシス選択性かつ最高96%の不斉収率で得られた。得られたジヒドロベンゾフラン誘導体を再結晶によって光学純品とした後、C5位へのスチリル基の導入とC2位の異性化および脱保護を経て(-)-マキシモールAを合成した。また、触媒としてRh2(TPA)4を用いてラセミ合成を行い、得られた天然物が光学的に純粋であることをHPLCによって確認した。 (2) 分子内の適切な位置にアリルオキシ基を組み込んだジアリールジアゾメタンの1,6-C-H挿入反応においてRh2(S-PTTL)4を触媒として用いると、cis-4-フェニル-3-ビニルイソクロマンが完璧なジアステレオ選択性かつ最高95%の不斉収率で得られることが分かった。本反応では5員環オキソニウムイリド形成を経る転位体の副生は見られなかった。また、アルキルエーテルや種々のベンジルエーテル側鎖をもつジアリールジアゾメタンを基質として行うと、いずれの場合にも高い収率および不斉収率、完璧なシス選択性が得られた。これらの結果はジアリールジアゾメタンを基質とする分子内不斉1,6-C-H挿入反応の最初の例となる。今後、本法は含酸素6員環構造を有する生物活性天然物の合成への応用が期待される。
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