研究課題
本研究は外部刺激応答性固体表面の開発を目的としている.その達成には外部刺激に対して可逆的応答を示す分子骨格の構築が不可欠である.平成26年度は2,7-ジtBu-ジメチルアクリジンをC-CおよびN-N結合で連結したテトラメチルビアクリジン誘導体(TBA)を合成し,酸添加/中和という化学的刺激に応答して可逆的な電子移動反応を起こすことを見出した.すなわち新規刺激応答性分子の開発に成功した.機能性有機電子材料分野を主として,基礎/応用科学技術において重要な成果である.この結果は一流国際化学雑誌であるChemical Scienceに採録が決定した.酸性条件下では,TBAのN-N結合開裂が起こりビラジカル中間体を経て,2分子の1電子酸化体のラジカルカチオンおよび1分子の2電子還元体のジアミン塩を与える.逆反応について,トリエチルアミンにより中和することでジアミンからラジカルカチオンへの選択的な逆電子移動反応が起こる.再び生じたビラジカル中間体のN-N結合形成反応が進行し,原料TBAを定量的に再生することで反応が完結する.可逆的電子移動反応実現の要因として,1)N-N結合切断/形成反応の酸によるスイッチング,2)TBAの多電子供与・受容能,3)極めて安定なラジカルカチオンの生成,4)高選択的電子移動反応が重要であった. この成果は,有機分子を用いる酸塩基刺激に応答する電子移動反応系の開発および制御において重要な知見である.tBu基置換TBAの脱tBu化を行い,嵩高い置換基を持たないTBAの合成にも成功した.X線結晶構造解析により,結晶中では1次元方向に積層したカラム構造を形成した.本化合物も酸存在下において,同様の電子移動反応が進行した.このとき生じたラジカルカチオンは溶液中分解せず,極めて安定であることから,嵩高い置換基による速度論的安定化を必要としないことがわかった.
2: おおむね順調に進展している
外部刺激応答性を有する新規ヘリセン骨格を見出したことは,評価すべき達成である.可逆的な電子移動反応を起こし,生成物のラジカルカチオンが極めて安定なので,物性研究への展開が容易である.また無置換体が結晶中で1次元のカラム構造を持つことから,固体状態における分子間の電子および磁気的相互作用の発現に有利である.このように新規ヘリセン骨格に関する研究において大きな進展があった.ただし金表面との複合化についての進展が遅れている.以上2点から判断して,評価区分を(2)とした.
電子供与基または電子吸引基を持つTBA誘導体を合成し,現象の一般性および電子効果について調べる。イオウ官能基を導入したものも合成し、金表面との複合化を試みる。固体表面における外部刺激応答性について検討を行う。
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Chemical Science
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10.1039/c5sc00946d