研究課題/領域番号 |
26860007
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鬼塚 和光 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (00707961)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | RNA / 擬ロタキサン / 反応性DNA / クリックケミストリー |
研究実績の概要 |
本研究では、RNA存在下ただ加えるだけで擬ロタキサン構造を形成する一対の化学反応性DNAを設計・合成した。この二本のDNAを標的RNAに加えたところ、それぞれのDNAが標的RNAに対し二本鎖を形成することで、まずホスホロチオエート基とクロロアセトアミド基とのSN2反応が進行、二本のDNAが連結された後、DBCO(環歪みをもつアルキン)とアジド基が近接し、銅触媒なしのクリック反応が加速されへリックス間で架橋が結ばれること、さらにこれら二つの反応がRNA上で進行することで擬ロタキサン構造を形成し、RNAに対し非熱変性条件で安定な複合体を形成できることを確認した。具体的には、標的28mer RNA存在下、反応性DNAを用いてpH 7.2、37℃の条件で反応を行ない、変性ポリアクリルアミドゲルにて分析したところ、通常の二本鎖より変性ゲル上で安定な擬ロタキサン由来と考えられるバンドが観測された。本反応は30分以内で70%以上の収率で進行しており、非常に効率よく進行していることも分かった。さらに本反応は環状の一本鎖DNA(7249塩基)に対しても進行し、カテナン(二つの環が鎖のようにつながった構造体)を形成することも確認した。 この擬ロタキサンの熱的安定性を確認するため、様々な温度で10分間加熱後、0℃へ急冷し変性ゲル電気泳動で擬ロタキサンの存在率を調査した。その結果、70℃の加熱で環状化したDNAはRNAから解離することが明らかになった。この二本鎖のTm値が66℃であったことから、この擬ロタキサン構造は二本鎖構造の熱的安定性を大きく上げる効果はなかった。しかしながら、室温下、変性ゲル上(非熱的に二本鎖構造を解離する条件)でこの擬ロタキサン構造は安定だったことから、これまでの二本鎖構造にはない特殊な安定性を与えることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請課題では、標的RNAに対して擬ロタキサン構造体を形成する新しい人工核酸を開発すること、およびその技術を翻訳制御法へ展開することを目的としている。現在までに、設計・合成した一対の化学反応性DNAを利用することで、標的RNAに対して効率よく擬ロタキサン構造体を形成する技術を開発することに成功した。計画の前半は達成することができ、現在翻訳制御法への展開の準備も着実に進んでいるため、おおむね順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに、機能性DNAを用いた擬ロタキサン形成法に関する基盤技術はおおむね確立することができたが、最大収率が70%と改善の余地は残っている。リンカーの長さや種類を変えることで、構造の最適化を行い、より効率の良いものを見出すことが今年度の一つ目の目標である。 この構造最適化と並行して、現在開発したものの中で一番いいものを用い、翻訳阻害実験を行う。ホタルルシフェラーゼを持つmRNAを試験管内で調整し、反応性ODNとの擬ロタキサン形成を行う。さらにこのmRNAを用いて、試験管内での翻訳系により蛋白質発現を行い、ルシフェラーゼの発光を調べることで、擬ロタキサン形成による翻訳阻害について検討する。形成する擬ロタキサン構造の安定性と試験管内における翻訳阻害効率を比較し、新たな分子設計へとフィードバックする。順調に研究が進展すれば、今年度後半には細胞系での実験を試みる予定である。 現在までに得られた擬ロタキサン構造体は、ゲルシフトアッセイ以外に形成を示唆するデータは得られていない。得られた擬ロタキサン構造体をNMRで解析すること、またはX線により結晶構造を得ることは、擬ロタキサン構造形成を証明するだけでなく、新たな分子を設計する上でも重要となってくる。これらの解析のためのサンプルも現在準備を進めており、今年度中に解析に着手する予定である。
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