有機含フッ素化合物は、フッ素原子がもたらす興味深い性質によって医農薬品に広く用いられている。そのため、有機分子へのフッ素系官能基導入反応は、新たな活性・機能創出に欠かせない技術であり、最も精力的に取り組まれている研究分野の一つである。精密有機合成化学の観点からは、パーフルオロアルキル(RF)化反応は報告例が少なく、バリエーションや基質の適用範囲は極めて限定的であるため、RF基の化学はまだまだ未成熟な現状である。その原因の一つとして、これまで頻用されてきたRF-LiおよびMg金属種の熱的な不安定性が挙げられ、これを克服するためにより安定なRF亜鉛種に着目した。 本課題では、Lewis塩基により適度に活性化されたジアルキル亜鉛とRF-Xのハロゲン-亜鉛交換反応を基盤とした新たなRF亜鉛種の発生法を確立し、以下の新規RF化反応を開発した。 (1)sp3 炭素-RF 結合形成反応:LiClにより活性化されたジメチル亜鉛は、0℃下で種々のRF-Xと円滑に反応し、RF-ジンケート(RFZnMe(Cl)Li)を発生し、これが室温にてアルデヒド、ケトン、酸無水物など種々のカルボニル化合物をRF化することを見出した。本ジンケートは極めてエステル基、シアノ基、ヨウ素を有する基質を用いても、これらを損なうことなく反応を進行させるなど、極めて官能基許容性が高いことを見出した。 (2)sp2 炭素-RF 結合形成反応:DMPUを配位子とする中性のRF-亜鉛試薬は、加熱条件下(90℃以上)においても分解せず、銅触媒によるアリールハライドとのクロスカップリング反応により多彩なRF化アレーンを与えることを見出した。 さらに、トリフェニルホスフィンオキシドを亜鉛の活性化剤かつ触媒として用いることで、パーフルオロアリール亜鉛種による臭化アリルのSN2型置換反応が高官能基選択的に進行することを見出した。
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