研究課題/領域番号 |
26860011
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
湊 大志郎 富山大学, 大学院医学薬学研究 部(薬学), 助教 (80610914)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | Brook転位 / Wittig反応 / ホスフィン / イリド / 炭素間結合形成反応 / シリルエノールエーテル |
研究実績の概要 |
新規な炭素間結合形成法に繋がる反応開発を目指した検討の中で、Brook転位を鍵とする新規カスケード型反応の着想を得ていた。 この着想を元に検討を行ったところ、アシルシランを基質としホスフィン求核剤とアルデヒドを用いた反応において、1,2-Brook転位により反応系中でイリドが生成しそのままWittig反応が進行することで、シリルエノールエーテルを高収率かつE体選択的に得られる事を見出した。一般的なケト化合物の脱プロトン化によるエノール化を経た合成法やHoner-Wadsworth-Emmons反応を利用した場合では、通常Z体優位にシリルエノールエーテルが得られてくることから、高E体選択性の反応は非常に有意義と言える。 そこで、用いるホスフィン、反応温度、反応溶媒、シリル基の嵩高さなど詳細な条件検討を行うことで十分でない選択性改善に取り組んだ。この立体選択性の改善により、反応としての価値を大きく高めるものと考えた。 さらに、同様の条件下得られるイリドとイミンとの反応において、加熱条件下にてシリルエノールエーテルがZ体選択的に得られる事を見出した。これら結果を元に、アルデヒドまたはイミンを用いてそれぞれの立体異性体を自由に作り分ける事のできる様な反応を目指して詳細な条件検討を行った。 また、反応にアルデヒドまたはイミンを用いることでシリルエノールエーテルの両異性体がそれぞれ優位に得られてくる機構の解明のため、その詳細な検討を行った。本反応は脱プロトン化のためにブチルリチウムなどの強塩基を用いることなくイリドを形成できる「salt-free条件」のWittig反応であるという特徴を有している。この特徴に着目して、選択性の挙動の変化について考察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アシルシランに対してホスフィン求核剤を用いる際に、1,2-Brook転位が進行する事により系内でsalt-free 条件のイリドが生成すること、更にアルデヒドを共存させる事でWittig反応が連続的に進行し、シリルエノールエーテルが得られる反応の端緒を得ていた。 そこで、用いるホスフィン、シリル基の嵩高さ、反応溶媒、反応温度など詳細な条件検討を行うことで、高効率かつ高選択性でシリルエノールエーテルが得られる最適条件を目指した。 アルデヒドとアシルシランを用いた検討の場合、求核性が高く嵩高さの小さいホスフィンを用い、さらに低温条件下反応させる事で、収率を損なう事無くE体選択性を向上させる事ができた。一方で、スルホニルイミンを用いた検討の場合、低温下や室温条件ではイミンとホスフィンの錯体の形成が起こっていると考えられ、反応が進行しなかった。そこで、高温条件に付したところ、反応が短時間で終了し、高収率かつアルデヒドの場合と異なる高いZ体選択性でシリルエノールエーテルを得る事ができた。 シリルエノールエーテルの両異性体がそれぞれ優位に得られてくる機構の解明のため検討を行った。反応温度により異性化が進行するかを調べるために、アルデヒドの反応を高温条件で行ったものの、Z体選択性となる事はなかった。また、得られたそれぞれのシリルエノールエーテルを反応条件下加熱しても、異性化が進行する事はなかった。この事から、反応の段階で選択性が発現しているものと考えられる。 本研究において、様々な条件を精査することによりE体及びZ体それぞれのシリルエノールエーテル異性体を高選択的に得るための反応条件を得る事ができており、おおむね順調に進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、種々の反応条件を精査する事で、アシルシランにホスフィン求核剤を作用させる事でイリドを形成し、連続的にアルデヒドまたはイミンとのWittig反応を進行させる事で、E体及びZ体それぞれのシリルエノールエーテル異性体を高選択的に得る事ができており、基質の適応性や選択性の傾向など多くの知見が得られた。そこで平成27年度は、それら以外の多様な基質についても反応の検討を行い、反応条件の再検討を含めた実験を行う事でより反応の一般性を高めていく事を目指す。 本研究にて取り組む新規合成法は、二成分連結型の炭素間結合形成反応であるため、一般的な合成法のように対応するカルボニル化合物をあらかじめ準備する必要は無く、直接的にシリルエノールエーテルを合成できる。用いる求電子剤を変更する事で、様々な置換基を持つ多様なシリルエノールエーテルを網羅的に供給できる手法の開発が可能と考えられる。 まず、嵩高さにより反応性の点で難易度が高いと考えられるケトンやケチミンを用いた場合の検討に取り組む事で、四置換オレフィン体のシリルエノールエーテルの高立体選択的合成に取り組む。 さらに、ホルミルシランを用いた反応の検討により、二置換オレフィン型や予備検討のものと異なる三置換オレフィン型のシリルエノールエーテル合成が可能であり、これらの立体選択的合成に取り組む。 詳細な検討を行う事で、「salt-free条件」という特徴を生かした多様なシリルエノールエーテルの高立体選択的な合成を目指していく。
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