研究課題/領域番号 |
26860015
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
菅原 章公 北里大学, 感染制御科学府, 助教 (50581683)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ルミナミシン / 抗嫌気性菌活性 / 14員環ラクトン / 10員環ラクトン / Juliaカップリング / エノールエーテル / シスデカリン骨格 / 全合成 |
研究実績の概要 |
標的細菌であるClostridium difficileは、偽膜性大腸炎の原因菌である。現在その治療薬はあるものの、耐性菌の出現などの問題から新たな抗嫌気性菌薬の開発が期待されている。そのようななか、ルミナミシン (1)は、Streptomyces sp. OMR-59株の培養液から抗嫌気性菌活性を示す化合物として見出された。1は(A)14員環ラクトン内の無水マレイン酸と共役したエノールエーテル(合成完了、論文発表済み)、(B)6-6-6三環性酸素結束シスデカリン骨格(合成完了、学会発表済み)、(C)これら二つのユニットを結ぶ高歪み10員環ラクトン(合成未完了)、の極めてユニークな構造を有しており、構造的、生物活性的に興味深い。このような背景のもと、研究代表者は、高歪み10員環ラクトン構築を鍵とした1の全合成、誘導体の創製を通じ、構造活性相関の解明、嫌気性菌に選択性の高いリード化合物の創製を目指し研究に着手した。 現在までの知見を踏まえ、本年度、研究代表者は1の全合成に向け、10員環ラクトンの形成を検討した。分子間、分子内オレフィンメタセシス反応を用いて三置換オレフィンを含む高歪みな10員環ラクトンの構築を検討したが、反応は全く進行しないことが判明した。次いで、分子間Juliaカップリングを用いた検討を行ったが、望みの反応は進行しなかった。そこで、反応点を近づける目的で分子内Juliaカップリングの検討を行った。まず、フェニルスルホン体に強塩基を作用させたところ、10員環ラクトンは形成されたが低収率であり、主生成物はアセタール体であった。種々検討したところ、得られたアセタール体に対してDBUで処理することにより、アセタール体の開裂に伴う、環拡大反応が進行し、望みの10員環ラクトンを収率良く得ることができた。今後得られた化合物から、1の全合成を目指していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ルミナミシン (1)は、(A)14員環ラクトン内の無水マレイン酸と共役したエノールエーテル(合成完了、論文発表済み)、(B)6-6-6三環性酸素結束シスデカリン骨格(合成完了、学会発表済み)、(C)これら二つのユニットを結ぶ高歪み10員環ラクトン(合成未完了)、の極めてユニークな構造を有している。1の全合成経路確立のためには、これら3つのユニットのオーダーメードな合成法が必要となる。現在までに研究代表者は、(A)14員環ラクトン内の無水マレイン酸と共役したエノールエーテルと(B)6-6-6三環性酸素結束シスデカリン骨格の独自の合成法を確立した。そこで、本年度研究代表者は(C)これら二つのユニットを結ぶ高歪み10員環ラクトンの合成法を含む1の全合成達成を計画していた。しかしながら、高歪み10員環ラクトンの合成法の確立に予想以上の時間がかかったため、1の全合成達成には至らなかった。そのため、やや遅れていると判断した。 今後、この高歪み10員環ラクトンの合成法を用い、できるだけ早い時期に1の全合成を達成させる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
ルミナミシン(1)は(A)14員環ラクトン内の無水マレイン酸と共役したエノールエーテル(合成完了、論文発表済み)、(B)6-6-6三環性酸素結束シスデカリン骨格(合成完了、学会発表済み)、(C)これら二つのユニットを結ぶ高歪み10員環ラクトン(合成未完了)、の3つの課題がある。本年度、酸素架橋シスデカリンを含む10員環ラクトンの構築を達成したので、今後三置換オレフィンの構築、保護基の除去を経て、天然物1の合成経路確立を行う。 加えて、活性評価を行う。 1の活性がシスデカリン部分の類似天然物の活性とは全く異なる活性を示すことに対して、その機構の解明を目指すために、各フラグメントの抗嫌気性菌活性の精査を行う。研究代表者は、既に、1の上部にはクロストリジウム属に対して抗菌活性が無いことを確認しており、その活性発現には1の下部が重要な役割を果たしている可能性を見出した。従って、下部のみの誘導体や架橋構造を持たない誘導体、上部と10員環が結合した誘導体などを設計した。また、 天然物1を直接誘導化し、その活性評価を行う。特に、天然物の誘導化からは天然物骨格の構造活性相関が得られると期待できる。これらの情報は全合成経路からは得られない情報であり、有用な微生物を所有する当グループの大きな特徴と云える。上記に示したアプローチを巧みに利用し、1がシスデカリン部分の類似天然物の活性とは全く異なる活性を示すことに対して、その機構の作用解明を目指す。
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