研究実績の概要 |
本研究は、生理活性ペプチドを導入したリガンドと金属イオンからなる1:3錯体を基盤としたがん治療薬の創製研究である。前年度、カチオン性ペプチドとしてリシンリシングリシングリシン (KKGG) ペプチドを導入したリガンドとイリジウムの1:3錯体が、がん細胞選択的な細胞死誘導活性を有することを見出した。さらに、細胞死誘導メカニズムについて、詳細な検討を行ったところ、Ir錯体が、細胞内カルシウム濃度の上昇を引き起こし、その後、細胞の形態変化を伴った細胞死が誘導されることが示唆された。本年度は、細胞に作用する種々の薬剤存在下、Ir 錯体の細胞死誘導能を評価することにより、細胞死誘導メカニズムのさらなる検討を行った。その結果、小胞体から細胞質へのカルシウムの放出に関わる inositol 1,4,5-trisphosphate (IP3) 受容体の選択的な阻害剤である xestospongin C 存在下、 Ir 錯体の細胞死誘導活性が低下することが明らかとなった。この結果より、細胞内カルシウムが関わる Ir 錯体の細胞死誘導メカニズムにおいて、IP3 受容体の関与が示唆された。 さらに、生体内金属イオン(亜鉛、鉄など)との錯体形成により制御される新規配位子として、カチオン性ペプチドを導入した三脚型トリスビピリジン配位子の設計・合成に着手した。トリスビピリジン配位子は、2-ブロモ―5-ヒドロキシピリジンから8段階で合成し、現在、配位子に種々のペプチドの導入を検討している。初期検討として、三脚型配位子と亜鉛 (II) 、鉄 (II) 、コバルト (II) 、ニッケル (II) イオンとの錯体形成を UV 滴定により評価した。その結果、三脚型トリスビピリジン配位子(鉄、コバルト、ニッケル)と 1:1 錯体を形成することがわかった。今後、カチオン性ペプチドを導入した配位子と金属イオンとの自己集積化による細胞死誘導活性の制御を検討する予定である。
|