従来の「GlycoPEGylation」は糖転移酵素を用いるため、目的の糖転移体を大量に調製することは非常に困難である。そこでこの問題点を解決するために、Endo-Mに代表される糖加水分解酵素を用いることにした。このEndo-Mを用いる糖転移反応の基質としてはN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)オキサゾリン誘導体が高い反応性を示すことが知られている。しかしながら、現状ではGlcNAcのどの官能基にどのくらいのPEG鎖を導入すればEndo-Mなどの酵素の基質として認識されるか全くわかっていない。そこでこれらの機能を解明し、糖加水分解酵素を用いた「GlycoPEGylation」を開発するために種々検討を行った。 昨年度までにGlcNAcのそれぞれの水酸基にPEG鎖を導入したオキサゾリン体の合成に成功した。そこで、今年度は合成した各オキサゾリン誘導体を用いたEndo-Mによる糖転移反応を検討した。しかし、合成した各オキサゾリン誘導体はほとんど糖転移活反応が進行せず、目的物を得ることができなかった。そこでオキサゾリン体を単糖ではなくニ糖誘導体に変更して検討を行うことにした。合成するニ糖の構造としては生体内に存在する糖鎖であるN型糖鎖の部分構造であるマンノシル(β1-4)N-アセチルグルコサミン骨格とした。すなわち、合成したマンノシル(β1-4)N-アセチルグルコサミン誘導体のマンノース残基の3位と6位水酸基にPEG鎖を導入した後、オキサゾリン化し、これを糖転移反応の基質とした。種々検討した結果、このニ糖オキサゾリンを用いることで、Endo-Mによる糖転移反応が進行し、目的の糖転移体(収率89%)を得ることに成功した。 この結果により、糖加水分解酵素を用いた「GlycoPEGylation」の足掛かりをつかむことができた。これによりこのテーマの今後の更なる発展が期待できる。
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